ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

新明解の副詞:しばらく

新明解国語辞典の副詞の記述を検討しています。

 

  しばらく (副)長いと感じられるほどではないが、ある程度の時間を要する(が経過した)ととらえられる様子。「今-お待ちください/彼とは-会っていない/-ぶりの上天気/この問題は-置こう〔=当分の間触れないことにしよう〕」[運用]「しばらくでした」などの形で、久しぶりに会った人同士の間で交わされる挨拶(アイサツ)の言葉として用いられる。例、「やあしばらくでした、お変りありませんか」  新明解

 

「長いと感じられるほどではないが、ある程度の時間を要する(が経過した)」としています。初めてこれを見たときは、まあ、こんな感じかな、と思ったのですが、他の辞書を見ると、違ったとらえ方をしています。

 

  副 1さほど長くはないが、すぐともいえないほどの時間がかかるさま。「━(=少々)お待ち下さい」「━して試合が始まった」2ある程度長い時間が経過するさま。「━見ないうちに、ずいぶん大きくなったね」▽久しぶりの再会などで挨拶あいさつとしても使う。「やあ、━」「━でした」  明鏡

  〘副・ノダ・ス自〙①長いとまでは言えないが、幾らかの時間。少しの間。「―お待ちください」「―して(=たって)また来る」「今から―は変化があるまい」「―のいこいを求める」▽名詞的にも使う。「ここ―が山だろう」②やや長い時間を隔てているさま。「やあ、―だね」「―ぶりの雨」  岩波

  1少しの間。「-お待ちください」2すこし長い間。「-ぶり・やあ-(でした)〔=しばらく会わなかった人に対するあいさつのことば〕3〔文〕いちじ。かりに。「その問題は-置いて」  三国

 

それぞれ言い方は違いますが、「少しの間」と「ある程度長い時間」との2つに分けることが多いようです。

代表的な用例として、「しばらくお待ちください」が「少しの間」で、「しばらく会わない」の類が「長い時間」の例とされます。

ふむ。確かに、そういえばそうですね。

「彼とはしばらく会っていないなあ」という場合、数年会っていないかもしれない。それを新明解のように「長いと感じられるほどではないが、ある程度の時間が経過した」というのは無理があります。「かなり長い時間」を「しばらく」で表しています。(客観的な量として長いだけでなく、心理的にも「長い」と感じている)

 

しかし、では、はっきり2つに分けたほうがいいか、と言われると、それもなあ、と煮え切らない答えになってしまいます。2つに分けるなら、その違いをはっきり書くべきだからです。

「しばらく」に続く述語がどのようなものである場合は「少しの間」であり、また別のどういう述語なら「ある程度長い時間」と解釈されるのか、そこをはっきり示さずにただ2つのちがった語釈を並べるのでは、辞書の記述として不十分です。その語をどう使ったらいいのかが、辞書の使用者に明らかでないからです。

動詞が「待つ」なら「少しの間」で、「会う」なら「かなり長い間」だ、というのは個別的すぎて、一般的な説明にはなっていません。

 

さて、どうしたものでしょうか。

 

なお、三国が「しばらくおく」の例を別とし、「文章語」で「いちじ。かりに。」という語釈を与えているのは、よい処理だと思います。