ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

新明解の副詞:たびたび・しばしば

新明解国語辞典明鏡国語辞典から。

 

  たびたび (副)一回や二回でなく、繰り返し行なわれる(起こる)様子。「自治体のヤミ給与は、これまでも-問題となった/-の警告も無視された」  新明解

    副 同じことが何回も起こるさま。何度も。しばしば。「彼は━ここにやって来る」  明鏡

 

  しばしば (副)同じ行動や状態が続く途中で、その事が何度も繰り返しさしはさまれる様子。「-口をさしはさむ/転校してから-その症状を訴える」  新明解

   副 何度もくり返されるさま。たびたび。しきりに。「同じような事件が━起こる」「春先になると━風邪を引く」  明鏡

 

明鏡は、語釈も同じようなことですし、「たびたび」には「しばしば」とあり、「しばしば」には「たびたび」とあるので、どちらも同じようなものだと言っているようです。

それぞれの例文を入れ替えても、何も変わりがないように思えます。この記述の問題点はあとで考えます。

 

一方、新明解は「しばしば」には「同じ行動や状態が続く途中で」「(その事が)さしはさまれる」という、「たびたび」にはない記述を加えています。これはどう考えたらいいでしょうか。

例えば「自治体のヤミ給与は、これまでもたびたび問題となった」という上の例で考えると、「自治体のヤミ給与」という「行動が続く途中で」、「(それが)問題となる」ということが「繰り返しさしはさまれる」ことを「たびたび」が表している、と言えそうです。つまり、新明解が「しばしば」で行っている記述は、そのまま「たびたび」にもあてはまりそうです。

この「たびたび」を「しばしば」に入れ替えた文、

  自治体のヤミ給与は、これまでもしばしば問題となった

は、ごく自然な文になります。

 

逆に、「しばしば」の例文に「たびたび」を入れた文、
  たびたび口をさしはさむ  転校してからたびたびその症状を訴える
も成り立ちます。特に意味内容の違いは感じられません。

では、「たびたび」と「しばしば」は同じようなもので、明鏡のように記述すればいいということになるでしょうか。

 

小学館日本語新辞典には、両者の違いについての記述があります。

  しばしば (副)いくらか時間や日にちを置いて同じことが何度も繰り返されるさま。やや改まった表現。[例]彼女はしばしば母の元を訪れた/遅刻することもしばしばだ。

  たびたび (副)いくらか時間や日にちを置いて同じことが何度も繰り返されるさま。[例]たびたび御足労いただきまして恐縮です/外食することがたびたびある/たびたびの挫折にもめげない。
   [類語](略)「たびたび」は日常語だが、回数が重なることに重点があり、「しばしば」は文章語的で、習慣的になることに重点がある。(略)  小学館日本語新

 

両語の語釈の部分がまったく同じなのにはちょっと笑ってしまいました。意識的にそうしたのでしょうか。基本的な意味内容は同じだ、という判断を表しているのでしょう。

さて、違う点ですが、まず、「しばしば」は「やや改まった表現」です。それに対して「たびたび」はごくふつうの日常語です。

「たびたび」の項には[類語]という、この辞典の大きな特徴である類義表現の比較の表と解説があり、そこでは、  

  「たびたび」は日常語だが、回数が重なることに重点があり、 
  「しばしば」は文章語的で、習慣的になることに重点がある。

と説明されています。

 

この説明がどの程度的を得たものかはまた検討が必要ですが、おおむね私の語感とも合います。

また、私の感覚では、「しばしば」のほうがより頻度が高いことを表す表現です。実際の回数の問題というより、話し手がそう感じている、ということです。(それが、上の比較の「習慣的になる」という説明とつながっているのかもしれません。)

それと、「たびたび」には「たびたびの質問/コメント/訪問」など、「~の」の形で名詞を修飾することが多いのに対して、「しばしば」はその形が少ない、ということも違いの一つとしてあると思います。新明解が「たびたびの警告も無視された」という用例を上げているのはよいと思います。

 

以上、新明解のよくわからない語釈と、二つの語の違いについて述べました。

小学館日本語新のような記述が、他の多くの辞書にもあってほしいものだと思います。