ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

うまる・うめる:岩波

岩波国語辞典の「うまる」については前に書いたことがあります。(2020-01-16 岩波第八版(2):ゆるい・うまる)

同じ話の蒸し返しですが、ちょっと情報を付け加えて。

 

  うまる ①→うずもれる①。      岩波

  うずもれる ①うまっている。「雪に―」   岩波

 

何度見ても、この項目を書いた執筆者、それを読んで良しとした編集者の考えがわかりません。

これが、

 

  うまる   1うずもれる。
  うずもれる 1うまる。

 

ということなら、他の国語辞典(三国とか、明鏡とか、、、)にもありそうな話で、(よくはありませんが)まあ、こんなもんなんだろうな、現在の国語辞典のレベルとしては、などと思うのですが、そこをひとひねりして、「うずもれる」を「うまっている」とした執筆者の思考経路がわかりません。

「雪にうずもれる山村」というような例で、「うまっている」と解釈できるから、ということでしょうか。しかしそれは連体修飾の場合の「スル」と「シテイル」の対立(の中和)の問題で、「山村が雪にうまっている」なら、「山村が雪にうずもれる」ではなくてやはり「うずもれている」でしょう。

また、「うずもれる」が「うまっている」だとすると、「うずもれている」はどうなるのでしょうか。(こういうのを「揚げ足取り」というのだな、とは思います。)

 

さて、今回思ったのは、「うまる」はこうだけれど、では「うめる」はどうなっているんだろうか、ということでした。

 

  うめる ①→うずめる①。「地中に―」  岩波

  うずめる ①土など他の物を上にかぶせて、外から見えなくする。「炭火を灰の中に―」「外国に骨を―」(外国で死ぬ)「袖に顔を―」   岩波

 

「うめる」は「うずめる」を見よ、というのは「想定内」でしたが、「うずめる」にはちゃんとした語釈がありました!

では、「うずめる」に対応する「うずまる」(「うまる」の類義語)は?

 

  うずまる ①土など他の物が上にかぶさって外から見えなくなる。「がけ崩れで家が―」「書物に-って暮らす」  岩波

 

ちゃんと書いてあるじゃないですか。この語釈は、「うまる」にも(ほぼ)当てはまると思います。

じゃあ、なんで「うまる →うずまる」とせず、「うまる →うずもれる」としたのか。

「うまる →うずまる」としない理由が何かあったのでしょうか。(「うまる」は「うずまる」とははっきり違い、「うずもれる」と同じだと考えた? そうでしょうか。下に明鏡の各項目を載せますので、比べてみてください。)

 

ここで、いつもの私の勝手な推測(「邪推」とも言う)になるのですが、執筆者の(初めの)意図としては「うまる →うずまる1」だったのじゃないか。それがどこかで混線(あるいは脱線)して、「うずもれる」へ行くことになってしまったのじゃないか。

そうとでも考えないと、最初の「うまる→うずもれる→うまっている」がひどすぎますから。

そういう「手違い」があったと考えるほうが、執筆者も編集者も現状を良しとしていると考えるよりも、私は精神的に落ち着きます。(まあ、私の心理的安定などはどうでもいいことですが。)

 

もう一つ不思議なのは、一応ちゃんとした語釈があるのが「うまる・うめる」でなくて、なぜ「うずまる・うずめる」なのか、ということです。

私の感覚では「うめる」のほうがより基本語で、ちゃんと語釈を与えられるべき語であって、「うずめる」のほうに「→うめる」とするのがいいんじゃないかと思うのですが、どうでしょうか。

他の国語辞典の例として、明鏡を見てみます。(新明解も全体的には似たようなものです。)

用法は一部省略します。

 

  うまる 1 くぼみや空所が満たされていっぱいになる。埋められる。
    「穴が捨てられたごみで━」
   2ある場所がいっぱいになる。「会場が聴衆で━」

   3おおわれて見えなくなる。うもれる。うずもれる。「町が火山灰 に/で━」 

  うめる 3土の下や中などに隠して見えなくする。うずめる。「庭に生ごみを━」「床下に死体を━」

  うずまる 物でおおわれて見えなくなる。埋没する。うまる。うもれる。うずもれる。「町が雪 に/で━」 

  うずめる 1土の中などに物を入れて、外からすっかり見えなくする。うめる。「土中に金塊を━」「異境に骨を━(=外国で死ぬ)」(略)

   ◇[使い方]「埋うめる」とほぼ同義だが、「うずめる」のほうが、<すっかり見えなくする><すみずみまでびっしりと>という意が強い。

  うずもれる 1土や雪などにおおわれてすっかり見えなくなる。うもれる。
      「村々が土砂に━」「地中深く━・れた宝物を掘り当てる」 

  うもれる 1土や泥でおおわれて見えなくなる。うずもれる。「登山者が雪崩なだれで雪に━」「砂に━・れた古代都市を発掘する」  明鏡

 

このように、それぞれの語にちゃんと語釈を書くのがいいでしょう。(「紙幅の節約(制限)のため」などと自らを甘やかすような言い訳を言うのはみっともないです。)

ここで、さらに「うまる・うずまる・うずもれる・うもれる」「うめる・うずめる」の用法の違いは何か、という類義語の比較研究という問題が出てきますが、それはおくとして、それ以前の、基本的なところをしっかり書いておいてほしいと思います。

明鏡は「うずめる」の項に[表現]として「うめる・うずめる」の違いを簡単に書いています。じゃあ、「うまる・うずまる」は?と言いたくなりますが、まずはこれだけのことでも書いてあるのは大きな前進です。