ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

新明解の副詞:もし

新明解国語辞典の「もし」の項の記述です。

 

  もし (副)〔「-+仮定表現」の形で〕1将来起こりうると予想される事態が起こった場合を仮定する様子。「-雨が降ったらやめにしよう」
    2(ありえないことだが)事実と反対の事態を想定してみる様子。「-戦争に勝っていたら/-私があなたの立場だったらどうするか」  新明解

 

1「将来」の事態の仮定と、2「事実の反対の事態」の想定。

後者、いわゆる「反実仮想」の場合をわざわざ書いているのはなかなかいいと思います。

ただ、「仮定」には、「現在」の、事実かどうかわからないことを仮定する、という場合があります。

 

  もし、この箱の中に鍵があれば君の勝ち、なければ僕の勝ち。いいね?
  もし母が隣の部屋にいたら困るので、小さな声で 話す/話した。

 

2番目の例は、現在形だと文として安定しないので過去形も添えておきます。

これらの例では「現在」の事態を仮定しています。(「いたら困る」のは、その場での「現在」です。)
「事実と反対」でもありません。

上の新明解の記述だと、この用法が含まれていません。

「事実がわからない」のは、将来のこと(新明解の例)と、現在のことの一部(上の私の作例)の外に過去のことの一部もそうです。(「もし、姉が1時間前に家を出たのなら、そろそろ着くはずだ。」)

「事実と反対」であることがわかるのは、過去のことの一部と現在のことの一部です。(新明解の例)

 

岩波国語辞典はその辺のことをもう少し詳しく書いています。

 

  《あとに「ば」「なら」「ても」などを伴って》確かめていない事、まだはっきり分かっていない事、事実と反対の事などを、仮に言う時に使う語。仮に。「―合格できたら」「―明日雨でも」「―君が女なら」「あの時―気づいていればこうはならなかったのに」▽近ごろは「とき」「場合」「として」など条件の言い方で受ける用法も、ふえて来た。  岩波

 

「▽」以下の注釈の部分にも例文があるといいですね。

 

明鏡国語辞典は非常に簡潔です。

 

  ある事態を仮定して述べることを表す。仮に。「━明日雨が降ったら中止にしよう」  明鏡

 

これでいいと言えば、まあ、いいんでしょうかねえ。