新明解の副詞:休み休み
新明解国語辞典の副詞を見ています。今回は軽い話で「休み休み」を。
休み休み (副)何度も途中で休みながら、同じ動作を続ける様子。「-歩く/ばかも-言え〔=よく考えて、控えめに言え〕」 新明解
用例の「ばかも休み休み言え」というのは、「(ばかも)よく考えて、控えめに言え」という意味でしょうか。
他の国語辞典を見てみましょう。表記の違いは気にせず、そろえてしまいます。
「ばかも休み休み(=せめては、そう立て続けでなく)言え」 岩波
「立て続けでなく」とは、つまり間に休みを入れながら、ということでしょうか。
適度に。「ばかも休み休み言え」 集英社
「ばかも適度に言え」ですか。「適度」とはどのくらいでしょうか。
よく考えて。「ばかも休み休み言え」 旺文社
「ばかもよく考えて言え」。よく考えたら、「ばか」は言わなくなりそうですが。
よく考えながら。〔非難をこめて言う〕「ばかも休み休み言え」 学研現代新
「非難をこめて言う」のはいいのですが、「ばかもよく考えながら言え」というのはどうもよくわかりません。
皆さん、何をおっしゃってるのか。
「ばかも休み休み言え」というのは、つまり、「ばか(なこと)を言うな」という意味なんじゃないでしょうか。
「休み休み」というのは、(ことば通りの意味としては)バカなことを続けて言うのをやめろ、と言っているのでしょう。
しかし、それは「休みながら」ならいい、という意味では決してない。
語釈の意味がちょっとわかりにくい国語辞典。
よく考えて事を行うさま。非難しながら制止するときに用いる。「ばかも休み休み言え」 小学館日本語新
「非難しながら制止する」とは、つまり「言うな」ということでしょうか。
初めの「よく考えて事を行うさま」と「非難しながら制止する」とのつながりはどうなっているのか。
そもそも、「よく考えて事を行うさま」は「休み休み」のこの例での意味と言えるでしょうか。
「ばかも~」以外の例が少なくとももう一つあると、この語釈の意味がはっきりすると思うのですが。
私と同じ解釈だった辞書が(見た中では)一つだけありました。三省堂国語辞典です。
「ばかも休み休み言え〔=ばかなこと(ばかり)を言うな〕」 三国七版
これを見て、ちょっと安心しました。国語辞典がみんな変なことを書いているのでは困ります。
なぜこんなひねった言い方をするのかと言うと、「馬鹿なことばかり言うな」ではあまりにも直接的すぎるので、「休み休み言え」とちょっとしゃれて言ってみただけだと思います。(誰がこの言い方を最初に使ったのでしょうか?)
国語辞典編集者の方々は、しゃれがわからないのかなあ、と思います。
さて、その三国ですが、前の六版を見ると違うのですね。
「ばかも休み休み〔=よく考えて、ひかえめに〕言え」 三国六版
おや、新明解と同じですね。
三省堂現代新国語辞典も同じ語釈です。
「ばかも休み休み(=よく考えて、ひかえめに)言え」 三省堂現代新
ある時期、この三冊は同じ解釈だったのですね。(もちろん、同じ出版社の辞典です。)
ところが、三国の編者が、ある時、これは変じゃないか、と気づいた。そして、七版の改訂の時に書き直した。
しかし、その後の新明解第八版の改訂の時、新明解の編者はこの項目を見直さなかった。(のか、見てもこれでいいと思ったのか。)
そんなところでしょうか。
三省堂現代新も同じですね。改訂したけれど、この項は書き直さなかった。
以上、いかにも小さなことなのですが、現在の(小型)国語辞典はまだまだいろいろ考え直すべきところが多いのだなあ、と改めて思います。
最後に大辞泉を見てみました。デジタル大辞泉は、「ばかも休み休み言え」自体を項目にしています。
馬鹿も休み休み言え そんな馬鹿らしいことを言うのは、いいかげんにやめろ。常軌を逸しているようなことを言うのをたしなめる言葉。 デジタル大辞泉
小型国語辞典の編集者は、こういう大型辞典を見て参考にするということをしないのでしょうか。