またまた・またしても:続き
前回の続きです。前回は、新明解国語辞典の「またまた・またしても」の解説があまりにも興味ぶかくて、それだけのほうがすっきりすると思い、短い記事にしました。
今回は他の国語辞典の「またまた」と「またしても」を一通り見てみます。
まずはいつもとりあげる三冊、明鏡と岩波と三国を。
明鏡国語辞典
またまた またしても。またもや。「━驚かされた」「▽復▽復」とも。
またしても 同じ事が繰り返されるさま。またも。「━一回戦で敗れた」
岩波国語辞典
またまた 〘副〙以前にも起こった上に、かさねて。またしても。「―延期だ」
またしても 〘連語〙《副詞的に》またまた。重ねてまた。「―あいつのしわざか」
三省堂国語辞典
またまた またかさねて。「-ごめいわくをおかけします・-忘れてしまった」
またしても さらに。かさねて。またも。「-しくじった」
三冊とも「またまた」も「またしても」も同じような意味を表す、という解釈のようです。
その他の多くの辞典もほぼ同じです。
旺文社国語辞典
またまた (「また」を強めていう語)またしても。「-記録を更新する」
またしても またまた。かさねてまた。「-出遅れる」
新選国語辞典
またまた [「また」の強め]なおまた。かさねて。「-失敗に終わった」
またしても かさねて。またぞろ。「-失敗か」
三省堂現代新国語辞典
またまた かさねてまた。「-失敗」
またしても またまた。またもや。「-失敗に終わった」
学研現代新国語辞典
またまた 「また」を強めたことば。またもや。またしても。「-難問だ」
またしても 「また」を強めていう語。またまた。またもや。「-後れをとった」
デジタル大辞泉
またまた 「また」を重ねて強めた言い方。またもや。「―失敗に終わる」
またしても 繰り返されるさま。またまた。またもや。「又しても優勝を逸してしまった」
以上、みな「またまた」「またしても」のどちらも同じようなものである、という解釈です。いわば多数派ですが、多数派の考えが正しいとは限らない、というのは世の中と同じでしょう。
次の四冊は少数派で、「またしても」には「のぞましくない・そうあってほしくない・このましくない・二度とあっては困る」同じことが起こる、という意味合いがあるとしています。
集英社国語辞典
またまた さらに重ねて。なおもまた。
またしても (そうあってほしくない)同じことがくり返されるさま。重ねてまた。またもや。「-敗れた」
小学館日本語新辞典
またまた 前にあったのと同じ事態がもう一度起きることを強調していう。さらにまた。[例]会場はまたまた大混乱に陥った/またまた御迷惑をおかけ致しまして申し訳ございません。
またしても 好ましくない、同じような状態がもう一度繰り返されるさまを表す。[例]またしても優勝を逃した。
現代例解国語辞典
またまた 更に重ねて。なおも再び。「またまた失敗した」
またしても 二度とあるまい、または二度とあっては困る、と思うことが、再び繰り返されるさま。またまた。またもや。「またしても抽選に漏れてしまった」
例解新国語辞典
またまた 「また」を強めていうことば。同じようなことをさらにかさねて。[用例]なんども注意されたのに、またまたへまをやった。[類]またしても。またもや。
またしても 「また」を強めていうことば。[用例]またしてもやられた。[類]またもや。またまた。[表現] のぞましくないことがくり返される場合に、いまいましい気持ちをこめていうことが多い。
どうでしょうか。「またしても」にはそのような意味合いがあり、「またまた」にはない、と。
そうはいっても、それぞれの辞書の「またまた」の例文も、多くは同じような「好ましくない」ことが多いようです。
実例を見てみましょう。「NINJAL-LWP for TWC」というものを使います。しろうとにも使いやすい書きことばコーパスです。
「またまた」を検索して、その中で「またまた+動詞」を見ると、「やる」の例が最多です。(29件)短い例文から並んでいるので、初めのほうを少し。
・またまたやられた〜!
・またまたやりました!
・またまたやってきました。
・またまたやって参りました。
・本日もまたまたやりました!
・またまたやられちゃいました。
・またまたやられた感満載である。
・またまたやります、『星に願いを!
・またまたやってしまいました。
・またまたやらせていただきましたァん!
・またまたやってきました爪切りの季節。
・またまたやってきましたロボットの季節。
好ましくないことも、そうでないこともあるようです。
他の動詞は「驚く」「行く」「出る」などです。「感動する」や「感心する」もあり、これらはどう見ても「好ましくない」ことではないですね。「同じことが繰り返される」ことに重点がある。
・本当に良いお話しに又々感動しました。
・以上、またまた感動し、私も亡き父と母に思いをはせています。
・歳内選手の 温かい思いやりに またまた感動しております・・。
・ひっそり一人でその後夜の月をみて、またまた感動して涙が出たのです。
・その逃げ足の速いのには又々感心しました。
・さすがおばさん化していると、またまた感心してしまう。
・こんな館をよく見つけてきたなとまたまた感心してしまう。
・父親に自分が何をしているのかきちんと報告するKちゃんにわたしはまたまた感心しました。
では、「またしても」はどうか。
「またしても」は、このデータベースでは単語と見なされていないようで、検索しても出てきません。しかたがないので「また」で検索して、そこの「また+動詞」の「する」の例を見ると、「またしても」の例がけっこうたくさんありました。
ちょっと多めに拾ってみます。
・私の足元に又しても魔法陣が出現した。
・夕方は又しても、ご近所のオリーブさんへ。
・でも又しても起こしてしまったリンママです。
・結構大きめだったので、又しても満腹になった。
・そのタイミングたるや、又しても絶妙であった。
・そして、そこから又しても暴落が始まったのです。
・ペルーとボリビアは、又してもチリとの戦争に及ぶ。
・分かって一体感を味わえ又しても不思議な世界でした。
・その頃、黒太郎は、又しても、愛々と踊らされていた。
・なんだかんだ言って唯一の常識人千明が又しても中心に。
・う〜ん又しても、100%の成果は出なかったようです。
・その先から林道は右へカーブしたら又しても決壊していた。
・頭の狭い中で、決闘が又しても繰返されているようである。
・彼は又しても僕にとつて、永遠に燃えつづける現在なのである。
・それでもテープに従って進むと又しても蜘蛛の巣がひっかかった。
・そう思い定めて十五年、神様は又しても大きな試練を私に課した。
・そうした騒ぎの後、戸仁井は又してもグッドアイデアを思い付く。
・その言葉にピタリと歩を止め、ザックスは又してもニヤッと笑った。
・ウォルマートからの帰り道、又しても交通事故を目撃してしまった。
・受けた傷も癒えたところに、チェンティの策略が又しても英風を襲う。
・正午過になつて再開された幹部会でハ又しても同じ論議が繰返された。
・お気付きの方もいらっしゃると思いますが、又しても入金確認出来ず。
・それが、又しても上海風モダーンインテリアの中では異彩を放っている。
・英風は彼のピンチを助けるが、又しても黒竜党の手の者が襲撃を開始した。
・ラスト、あやかし三行者が消え、又しても新しい忍者を呼び寄せる風魔烈風。
・どうにかして大きくまとまるといいのに、と思うと又しても腹が立ってくる。
・森の中に逃げ込んだホルスの前に、又してもヒルダが出現し、どこへ行くの?
・星田の頭には、又しても、あの気味の悪い、鋭い眼の持主のことが浮んできた。
・馬車を下りる時、又してもバクシーシを要求されたが完全無視して歩きだした。
・その温情を受けた親分は、又しても泣き出したので、それを観た村役人は、おや?
・東京へ帰る列車の中、トイレに立った亀野は、又してもばったり、梅吉と出会う
・1stシーズンのラストから4ヶ月後から始まる話で、又しても能力者はばらばら。
どうでしょうか。「好ましくない」ことの例が多いようです。なるほど。
それでも、そうでない例もけっこうあります。上にあげた3冊の辞書の書き方は、ちょっと断定的すぎるようです。
「好ましくない」ことの例が多い、ぐらいにしておいたほうがいいのでしょう。
例解新は「多い」ですね。ただ、「いまいましい」は言いすぎのような…。
さて、前回紹介した新明解の語釈によれば、
またまた赤組が優勝した (予想に反して)
またしても赤組が優勝した (予測通りに)
となるのですが、このカッコの中の対比は上の実例の中から浮かび上がってくるでしょうか。
どう考えても無理だろうと私は思うのですが。
「またまたやりました!/やってきました」と喜んでいる例が「予想に反して」とは思えませんし、上の例にはありませんが、「またまた暑い夏がやってきました」という例はどうなるのでしょうか。
「またしても戦争が始まった」「神様は又しても大きな試練を私に課した」「又しても交通事故を目撃してしまった」「亀野は、又してもばったり、梅吉と出会う」
みな「予測通り」でしょうか。
ちょっと意地悪な例を思いつきました。次の2つの例は不自然でしょうか。不自然でないなら…。
またまた予想通りになった。
またしても予測が外れた。
「またまた」にせよ、「またしても」にせよ、「また」を強めた言い方であるのは確かでしょうから、同じことが繰り返されることに「驚いたり呆れたり」ということはあるでしょう。つまり「意外性」ですね。そうなるとは思っていなかった、という。
ただ、それが「予測 通り/に反する」かどうか、「期待に反する」かどうかはまた別でしょう。はっきりした「予測」あるいは「期待」が特にない場合も多いでしょう。
別の観点から考えてみます。
あることが繰り返されたとき、それを不自然なことと見るか、ごく当然のことと考えるか、という見方の違いというものはあるでしょう。
例えば、あるサイコロを振ると1の目ばかり出る場合、このサイコロはおかしいと考える、とか。
あるいは、繰り返し実験に失敗するのは何か手順に間違いがあるのではないかと考える、とか。何も間違いがないのに失敗する、のではなく、何か間違いがあり、それを直せば成功する、と考えたほうが納得ができるわけです。
元の話に戻ると、「またしても」という語は、実例をいくつも見ていくと、同じことが繰り返されることを特に不自然なこととは思わない、というような含みがあるのかな、と思います。(「想定の範囲内」という言い方がありますが、それだと強すぎるような。)
前に起こったことが繰り返し起こることは、不思議なことではない、と。それが起こるような条件は変わっていないのですね。
ただ、それと「予測通り」ということとは別のことだと思います。そう「予測」していたわけではない。
上にあげた作例で、「またしても予測が外れた」というのが「予測通り」だというのは矛盾です。
さて、新明解の執筆者は、どういうところから上の語釈を考えだしたのでしょうか。
追記:
新明解は、類義の「またも」「またもや」についても、他の辞書とはちょっと違った語釈をつけていて、考えさせられます。
またも 望んでもいないのに、今回も相変わらず同じ事が繰り返される様子。
「-発覚した政治家のスキャンダル/-失敗に終わった」
-や 期待した変化が何ら見られず、同じ事が今回も繰り返される様子。
「選挙が終わってみれば-与党の勝利/-大義に名を借りた侵略戦争が始まる」 新明解
「またもや」は「またも」の小見出しになっていますが、それぞれ別の語釈をつけています。「予測」に関しては触れず、「期待」に反していることのみです。
三国は「またも(や)」として一つの項目にし、明鏡・岩波は「またも」の項を立てていません。