新明解と「形容動詞」
前回の記事で、新明解国語辞典は「形容動詞」という品詞を認めていない、という話を書きました。
品詞の略語表には他の辞書の「形動」に当たるものはなく、巻頭の「編集方針」に、
名詞・副詞のうち、サ変動詞またはいわゆる形容動詞としての用法を併せ有するもの
という言い方で、「いわゆる形容動詞」の語にはどういう表示をするかが書かれています。あくまで「名詞・副詞のうち」の一部です。
では、辞典本文の「形容動詞」の項ではどう説明されているのでしょうか。
形容動詞 〔日本語文法で〕品詞の一つ。物事の性質・状態を表わすのに用いられる言葉。用言の一つで、口語では「静かだ」「きれいだ」のように、言い切る時の形が「だ」で終わる言葉。〔形容動詞を一品詞とせず、体言に助動詞「だ・な」が結合したものと見る文法学説もある〕 新明解
カッコの中の補足説明が面白いです。「~文法学説もある」などと他人事のように書いていますが、新明解がその立場なのは明らかです。
しかし、国語辞典として、形容動詞という用語を他にも使わずに済ませるわけにはいかないのです。
巻末に「付録」として、「口語動詞活用表」の次に、「口語形容詞・形容動詞活用表」(p.1717)というものがあります。
品詞としては名詞あるいは副詞である語で、「いわゆる形容動詞としての用法」も持つものの活用表です。ちょっと苦しい話です。
名詞は断定の助動詞「だ」がつきます。その「だ」の活用は「口語助動詞活用表」にあるのですが、それとともに「形容動詞」の活用も併せ持つことになります。
「口語助動詞活用表」から「断定」の「だ」の活用形 (p.1719)
未然形 連用形 連用形 終止形 連体形 仮定形
だろ で だっ だ (な) (なら)
「口語形容詞・形容動詞活用表」から「形容動詞」の活用形 p.(1717)
未然形 連用形 連用形 終止形 連体形 仮定形
だろ で/に だっ だ な なら
違いは、連用形「に」と、連体形・仮定形のカッコの有無です。このあたりの説明は、新明解には何もありません。
この、活用の違いの問題、さらにはそもそも名詞と形容動詞の違いとは、という話になると、かなり面倒なことになるので、今回は踏み込みませんが、国語辞典として基本的なところは説明しておいてほしいところです。
形容動詞という品詞を認めないというのは、それはそれで一つの立場ですが、それについて何の説明もないのはよろしくありません。
なお、「口語助動詞活用表」の他のところを見てみると、「活用の型」には「形容動詞型」という用語があります。「ようだ・みたいだ・そうだ」が該当します。
これらの助動詞は、「だ」がついているのですが、その活用は「断定」の「だ」とは違い、「形容動詞」と同じ型になる、ということです。
さらに、その「接続(一)」にも「形容動詞の語幹」(に接続する)という言い方が出てきます。
こういう活用表の説明には、形容動詞という品詞名を使わざるを得ないのですね。
新明解は、文法を専門とする編集者はいなかったようで、以前は文法関連の用語の説明が不十分だったのですが、第七版から井島正博という文法研究者が加わったので、あちこちの文法的な説明が詳しくなりました。(特に「こそあど」「のだ」がすごい。)
この形容動詞関係のことも将来的には何とかするのでしょうか。