ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

岩波国語辞典の「口語」

岩波国語辞典の「口語」と「文語」について。

 

    こうご【口語】話し言葉。口頭語。⇔文語。   岩波

 

これだと、「文語」は「書きことば」になってしまいます。

 

  ぶんご【文語】①文章だけに用いる特別の言語。平安時代の文法を基礎として発達した。⇔口語。「―文法」②文字で書かれた言語。書き言葉。   岩波

 

「文語」と言えばまずこの①ですね。「古語(古典語)」です。「古語辞典」にあるような。

②の「書き言葉」は、「文語」というより「文章語」だと思いますが、それはともかくとして、反対語として「⇔話し言葉」を書いておいてほしいですね。

 

  はなしことば【話し言葉】日常生活で、口頭でやりとりする時に使う言葉。⇔書き言葉

  かきことば【書き言葉】文章を書く時、使う言葉。⇔話し言葉   岩波

 

話し言葉」と「書き言葉」は1対のセットです。

「口語」と「文語」も対なのですが、それぞれ「話し言葉」、「書き言葉」の意味でも使われるので、混乱が起こりかねません。しかし、辞書編集者がそれをしっかりわかっていないとは。

 

  こう‐ご【口語】1 日常の会話で用いられることば。話しことば。口頭語。
   2 話しことばと、それをもとにした書きことばを合わせた言語体系。現代語の総称。「━体」「━文(=現代の話しことばをもとにして書かれた文)」⇔文語   明鏡

 

岩波の編集者は、明鏡の2の用法をしっかり理解してほしいと思います。  

 

三国は明鏡と少し違います。

 

  口語 1音声で表現することば。話しことば。口頭語。音声言語。2現代のふつうの書きことば。話しことばにかなり近い。「-訳」⇔文語   三国

 

現代の「書きことば」のことを「口語」と言っています。これはどうなんでしょうか。「口語訳聖書」の会話の部分も、「文語」に対する「口語」だと思うのですが。私は明鏡の「~合わせた言語体系」という表現のほうがよいと思います。

 

新明解は、いつもの通り、かなり独特です。

 

  口語 音声で表現される言語のうち、その社会の人が日常の生活でごく一般的に使用するもの。〔話し言葉そのものとは異なる整合性が求められ、同時に文語に対して、独自の文法・語彙(ゴイ)の体系が備わっている〕「-文」⇔文語   新明解

 

ざっと読むと、なんだかわからない説明です。一言一言考えながら読むと、意味のはっきりしない(あいまいな)ところがあります。

とりあえず、「書きことば」のことに直接ふれていないということだけを指摘しておきます。(でも用例に「口語文」とありますね。)

 

さて、岩波に戻ります。

「口語」がおかしいので、その複合語もおかしくなっています。

 

  こうごたい【口語体】話し言葉風の文体。⇔文語体。

  こうごぶん【口語文】口語体の文章。⇔文語文

 

話し言葉風の文体」と「文語体」は、反対語の関係にはないでしょう。「口語文」もおかしいです。法律や裁判の判決文なども「口語文」でしょうが、「話し言葉風の文体の文章」ではありません。

 

  ぶんごたい【文語体】文語①でつづった文章の体。⇔口語体。
  ぶんごぶん【文語文】文語体で書いた文章。和文・和漢混淆文・漢文書き下し文・候文など。⇔口語文

 

こちらは、きちんと書かれています。

 

「口語」と「文語」がきちんと対立してくれないと、辞典巻末付録の「動詞活用表」などで「口語」と「文語」を分けることの根拠が不明確になってしまいます。

まったく、第八版まで「改訂」を繰り返していて、こんな基本的なところで誤りが残ったままというのはどういうことでしょうか。