ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

ふらりと・ぶらりと

三省堂国語辞典新明解国語辞典から。

 

  ふらりと 1力なくゆれ動くようす。「-よろける」2これといった目的もない
       ようす。「-立ち寄った」→ふらっと。   三国

  ふらりと その時の気分やその場の成り行きにまかせて行動する様子。「その男
       はどこからともなく-やって来た/どこへ行くとも言わず-外へ出て
       行きました」   新明解

 

三国の2の用法で「これといった目的もないようす」というだけだと、例えば

  ふらりと  ゲームを始めた・雑誌を眺めた・テレビを見続けた

など、いろいろな行動が当てはまるはずですが、これらの例は変でしょう。

新明解の「その時の気分やその場の成り行きにまかせて行動する様子」だと、

  ふらりと 居眠りした・馬券を買った・けんかに加わった・怪しげな会社に就職した

なども当てはまるでしょうか。

「ふらりと」が修飾できる行動は、もっと限定されるはずです。

 

明鏡国語辞典から。

 

  ふらりと 1体に力が入らないで、よろめくさま。「━倒れかかる」
    2これという目的もなく出かけるさま。また、何の予告もなくやって来る
     さま。「━旅に出る」「━姿を見せる」◇「ふらっと」とも。  明鏡

 

「出かける」「やって来る」という動作に限定しています。それだけだと限定しすぎかもしれませんが、三国の用例も、新明解の例も同じような移動動作の例です。

 

岩波も見てみましょう。

 

  ふらり〔副と〕①不安定に揺れるさま。「鐘が―とぶらさがつてゐる」(山村暮鳥
     「小川芋銭」)

    ②不意に現れたり出かけたりするさま。「絶望の揚句―と日本へやつて来た」
     (横光利一旅愁」)   岩波

 

なぜか突然、新潮現代国語辞典風に近代文学の例をあげています。「不意に現れたり出かけたり」は明鏡と同趣旨です。

 

「ぶらりと」も同じような用法があると思うので見てみます。まず三国。

 

  ぶらりと 1ぶら下がっているようす。「ヘチマが-下がっている」
    2これといった目的もないようす。「-公園を歩く」
    3何もしないでいるようす。「一日じゅうーしている」→ぶらっと。 三国

 

2は「ふらりと」と同じですね。同じ用法だと考えているようです。用例の違いに大きな意味はないでしょう。

 

次は新明解。

 

  ぶらりと 1それ自身の重みで垂れ下がっている様子。ぶらんと。「軒先の棚に
        -下がったヒョウタン」
   2これといった目的も無く出かける(やって来る)様子。「-散歩する/
       -酒屋に入る」
   3これといったこともしないで時を過ごす様子。「一日-していた」  新明解

 

2は「ふらりと」とずいぶん違います。「でかける(やって来る)」と限定しています。用例はもう少し広がりがありますが、「ふらりと」の例と同じような移動動作です。

新明解は、この二つの語をはっきり違うものと考えているのでしょうか。

 

明鏡。

 

  ぶらりと 1物が垂れ下がっているさま。「腰に手拭いを━下げる」
    2何の目的もなく出かけるさま。また、何の予告もなくやって来るさま。
     「━町へ出る」
    3何もせずに漫然と時を過ごすさま。「たまの休日を━過ごす」  明鏡

 

2は「ふらりと」の「これという目的もなく」が「何の目的もなく」に変わっただけです。

「何の目的もなく」は言いすぎじゃないかと思うのですが。

 

そして岩波。

 

  ぶらり〘副と〙①宙にぶらさがっているさま。「ひょうたんが―とさがっている」
    ②→ふらり②   岩波

 

②のほうは省エネです。用例くらい別のものを用意してもいいんじゃないでしょうか。

 

結論。三国は二つの項目の語釈を、新明解は「ふらりと」の語釈を考え直したほうがいいと思います。