国語辞典の「自動詞・他動詞」(22):「畳みかける・取り乱す・誇る」
自動詞派と他動詞派がきれいに分かれる動詞と、新明解・三国が独自の動詞を。
畳み掛ける 取り乱す 自慢する 誇る
新明解8 自 他 自他 他
明鏡3 他 自他 他 他
三国7 自 自 他 自他
岩波8 自 自 他 自
学研新6 他 自他 他 他
三現新6 自 自他 他 他
小学日 他 自 表示なし 自
集英社3 自 自他 他 他
旺文社11 他 自他 他 他
新選9 他 自他 他 自
「畳みかける」は、自動詞派と他動詞派が5対5に分かれるという、見事な対立をする動詞です。
自動詞派の新明解と岩波。
畳みかける(自下一)相手に考えたり反対したりする時間を与えず、次から次へと
一方的に働きかける。 新明解
畳みかける〘下一自〙相手に余裕を与えず、次から次へと続けて質問などを
しかける。 岩波
どちらも用例なし。それなりの評価を受けている辞書なんですが。
他の自動詞派の辞書の用例を。
三現新 畳みかけて質問する 集英社 畳みかけて質問する
三国 用例なし
他動詞派の明鏡。しかし、用例は自動詞のようです。
畳みかける(他下一)相手に余裕を与えないように、立て続けに働きかける。
「━・けて質問する」 明鏡
他動詞派の用例を。
学研新 畳みかけて質問する 一気に攻撃を畳みかける
旺文社 攻撃を畳みかける 質問を畳みかける
小学日 畳みかけて質問する 新選 畳みかけて質問する
なんでみんな「畳みかけて質問する」が好きなんでしょうね。特に、他動詞としている辞書が。
明鏡の用例も「質問を畳みかける」にすれば他動詞の用例になります。
学研新が多少はいいでしょうか。
コーパスから「~を畳みかける」という形の例を。
・HPは2800程度なので、一気に攻撃を畳み掛けて倒しましょう。
・言葉を次から次へと畳み掛けます。
・ジークはさらに質問を畳み掛けた。
・最近特に諏訪が観光活性化案をたたみ掛けて来ている気がするので
・先ず、性懲りもなく比喩をたたみかける描写の文章に読者は躓くだろう。
自動詞と考える辞書の編集者は、これらの例を見てどう考えるのか。「攻撃を畳みかける」は自動詞の例として可能でしょうか。
「取り乱す」は新明解だけが自動詞用法を認めません。三国・岩波などは自動詞用法のみです。
取り乱す(他五) 1とりちらす。2〔肉親の死など、突然の不幸な出来事に出会い〕
理性を失った行動をする。 新明解
取り乱す1(他五)だらしなく乱す。また、乱雑に散らかす。「━・した服装で人前に
出る」2(自五)心の平静を失って見苦しいようすになる。「急死の報に接し
て━」 明鏡
取り乱す〘五自〙①精神的なショックで平常の心を失い、態度を乱す。
②だらしない様子をする。▽元来は、とりちらかす意。 岩波
コーパスから「を」をとる例を。
・ブータンでは他人に対して心を取り乱して怒るというのは、とても恥ずかしい行為
・とにかく職場では決して心を取り乱して怒ってはいけないと思いました。
・怒りという感情で自分を取り乱しがちな自分をなだめるのもまた自分自身なんだよ。
・多くの人々の中において自分を取り乱すことなく、しっかりとした流れを
・煩悩とは、肉体や精神を取り乱し・悩ませ・正しい判断を妨げる心の働きをいいます
「取り乱した服装」とは言いますが、「服装を取り乱す/取り乱している」とふつうに言うかどうか。
「誇る」は三国だけが「自他」とし、自動詞派3冊、他動詞派6冊です。
誇る1(他五)〔自分や自分に関係のあることについて〕りっぱだと思う(ようす
を見せる)。「家柄を-」
2(自五)〔文〕得意になる。「勝ちに-」 三国
誇る〘五自〙他に対し得意の様子を示す。㋐自慢する。「権勢を―」㋑みずから
それを名誉とする。「無敵を―チーム」「日本一の高さを―ビル」 岩波
誇る(他五)((だれニ)なにヲ-)1〔自分に属するものを〕すぐれたものである
と確信する(して態度に示す)。「自分の腕を-」
2 何かの点において誇示するだけの内容を持つ。「数(カズ)(実績)を-
/東洋一を-〔=東洋一の、すばらしい〕ビルディング」 新明解
誇る(他五)1 他よりすぐれていると確信して得意になる。また、その気持ちを
態度やことばにあらわす。自慢する。「自分の才能を━」「権勢を━」
2長所として認められるものをもつ。また、それを名誉と思う。「日本が
━伝統技術」「歴史と文化を━古都」▽連体用法が多い。
明鏡
三国の語釈で、「りっぱだと思う」と「得意になる」の違いがはっきりしません。
「家柄を誇る」は「得意になる」のではない? 「立派だと思って得意になる」のでは?
それはともかく、「に」をとるのが自動詞だというのはわかります。
これは岩波など、自動詞とする辞書にもない例です。
岩波は「権勢を誇る」「無敵を誇る」などは自動詞だとします。根拠はわかりません。
自動詞派の用例を。
小学日 剣道三段の腕前を誇る 頑健を誇っていた祖父が倒れた
三年連続優勝を誇るチーム 我が国の誇る精密技術
新選 伝統を誇る 腕を誇る
「自慢する」は新明解だけが「自他」とします。他の辞書は他動詞のみ。
自慢 -する (自他サ)(なにヲ-する/なんだト-する)自分のした事や 自分に
関係のある物事に満足しきって、それがいかにすぐれている(他人には まね
の出来ない)ものであるかを強調して語ったり 示したり すること。
「-高慢、ばかのうち/腕- ・ お国-・ -話(バナシ)」 新明解
自慢〘名ナノ・ス他〙自分のこと、自分に関係の深いものを、自分でほめ人に誇
ること。「腕―」「のど―」(→のど)「―ではない(=というわけではない)
が」 岩波
自慢 (名・他サ変)自分に関することを自らよいと認め、得意になって他人に
示すこと。「ゴルフの腕を━する」「━話」「のど━」 明鏡
新明解の自動詞用法は「なんだト-する」という形のようですが、例文がありません。
コーパスから「と」の例を。
・自分がカッコイイと自慢したいわけではないのです。
・自分の仕事がオモロイと自慢する大人は初めてでした。
・俺は早稲田受かったんだ! 優良企業受かったんだ! と自慢する。
・「ここの具志豆腐は宇宙一おいしい」と自慢する
・どの美容師さんも“自分は上手い”と自慢したり、“上手い”と感じさせようとする。
しかし、新明解は「思う」の「なんだト-」は他動詞にしていたのではないでしょうか。
思う(他五)1(なんだト-)「痛いと思う〔=感じる〕/二度と行くまいと思う
〔=決心する〕/手に入れたいと思う〔=願う〕品」
2(なんだト-)「あすは雨だと思う/大丈夫だと思う」「国家の将来を思う
〔=憂慮する〕」 新明解
それぞれの辞書は、それなりに一貫した基準で自他の判定をしているのか、それとも案外そうでないのか。