ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

三国第八版:ディープ

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。

 

「ディープ」という項目で、「深い。濃い。」という語釈では「新宿の-なゾーン」という用例がどういうことを表すのかわからないだろう、ということを次の記事でごちゃごちゃと書きました。

niwasaburoo.hatenablog.com

 

  ディープ(形動ダ)〔deep〕深い。濃い。「新宿の-なゾーン」  三国第七版

 

第八版では次のように書き換えてあります。

 

  ディープ(ダナ)〔deep〕1深い。濃い。「-なファン」2一般的にあまり
    知られず、独特であるようす。「新宿の-なゾーン」  三国第八版

 

「新宿のディープなゾーン」というのが「深い。濃い。」では なんだかわからない、と前回の記事で書いたのですが、八版では用法2の「一般的にあまり知られず、独特であるようす。」という語釈の例になっています。「独特」が適切な説明だろうか、とも思うのですが、まあ、いいとしましょう。

しかし、用法1の「深い。濃い。」の用例が、今度は「-なファン」になっています。
なんということか。

「深い/濃い ファン」と言ってわかるのでしょうか。

「ディープなファン」という表現をどこかで見て、あるいは聞いて、どういう意味合いだろう、と思った人が三国を引き、「深い。濃い。」という単なる語の置き換えを見て、「ああ、そういう意味か。なるほど。」と思うのでしょうか。

「深いファン」?「濃いファン」? 何ですか、それは。

その意味がわかる人は、「ディープなファン」の意味がもともとわかっている人でしょう。

 

同じ出版社の辞書が「ディープなファン」は「深い/濃い」ではない、と言っています。

 

  ディープ 1深い。濃い。2[俗語]一般的な程度や常識をこえるようす。「-なファン」  三省堂現代

 

「深い。濃い。」は用法の1で、「ディープなファン」は用法の2.別の用法です。その語釈も、わかりやすいと思います。

 

ただ、用法1の「深い。濃い。」に用例がないのはよくないと思います。これでは、どういう場合に「深い。濃い。」の意味で「ディープ」が使われるのか、肝心なことがわかりません。

だいたい、「深い」と「濃い」ではずいぶん意味が違うわけで、それが一つの語で表せるというのはどういうことなのか。そこをわかるように記述しないといけません。

例えば、次の大辞泉のような。

 

  ディープ[形動]1 奥行きなどの深いさま。また、色の濃いさま。「ディープな
   ブルー」「ディープディッシュ」2 入れこんでいるさま。深くはまりこんでいる   さま。「ディープなファン」   大辞泉

 

この1のほうはわかりやすく書けていると思います。(なぜか語釈と用例の順が逆ですが。)

そして、用法の2で、「ディープなファン」という例を、三省堂現代と同様に「深い/濃い」という語釈とは別の用法の例としています。(大辞泉の語釈はあまりうまくないと思いますが。)

 

三国の編集者は、第八版の改訂の際にこれらの辞書を見ていないのでしょうか。

どう見ても、この項に関しては(も?)、三国の「改訂」はうまくいっていません。