病気・病院
大したことではないのですが…。国語辞典の「病気」と「病院」の説明について。
病気 身体の生理的機能や精神の働きに障害が生じ、苦痛・不快感などによって
通常の生活が営みにくくなる状態。やまい。疾病。「━になる」 明鏡
-する (自サ)生理(精神)状態に異状が起こり、(発熱や痛みなどによって)
苦しく感じる状態(になること)。「-が治る/-にかかる/長年の-」
新明解
体の全部または一部が、生理状態の悪い変化をおこすこと。発熱・苦痛など
をともなうものが多い。やまい。わずらい。疾病。 岩波
これらの語釈を読むと、どうもその主体は人間に限られているように思われます。
もちろん、病気になるのは人間だけでなく、動物もなります。特に家畜やペットの病気は、それに関心のある人々にとっては重大な問題です。「鳥インフルエンザ」は大きな社会問題になります。
岩波は「体」だけで「精神」がないので、動物にも適用できますが、そういう意図で「精神」を省いたということでもないでしょう。
(それにしても、岩波は、このような誰もが知っている語に用例をつけるのは無駄なことだと考えているのでしょうか。)
私が見た国語辞典の中には、「動物も病気になる」ことをはっきり書いたものはありませんでした。
ただ、次のような注記をする国語辞典がありました。
病気 体に異常が起こり、正常に機能しなくなる状態。植物などについてもいう。
現代例解
病気(略)[表現]「葉の病気」のように植物について使うこともある。 例解新
農業関係者や園芸を趣味とする人にとっては、植物の病気は大きな問題です。
初めの三冊の国語辞典の語釈からは、植物について「病気」ということばが使えるとは予想できないでしょう。
日本語教育用の辞典で、「外国人のための基本語用例辞典 第二版」(文化庁1975)という辞典の「病気」の項には、
イモチ病はイネの病気の中でいちばんおそろしい病気である。
という例文がありました。日本人にとって、「稲の病気」はまさに重大な関心事です。
国語辞典の編集者には、ペットや農業・園芸に関心のある人は少ないのでしょうか。
次は「病院」です。
病院 医師が患者の診察・治療を行う施設。「━に通う」▽医療法では患者二〇人
以上の入院設備を有するものをいい、一九人以下のものは診療所として区別
する。 明鏡
病気にかかった(けがをした)人を二十人以上収容して、診察・治療を行なう
施設。「-をたらい回しにされる/総合-・大学付属-・-船」 新明解
入院・外来の患者を大勢迎えて診察・治療を行う施設。▽患者収容病床が
二十以上のを言う。 岩波
こちらも人間のみの話です。動物が病気になったらどうするか。獣医に見てもらうわけですが、ペットに関しては「動物病院」ということばが広く使われています。
いつものコーパス調査、NINJAL-LWP for TWC で「名詞+病院」という複合名詞を見てみると、頻度順で「大学病院」「総合病院」に次いで「動物病院」が三番目に入っています。その後は「附属病院」「精神病院」「市民病院」と続きます。
「動物病院」、なかなかよく使われることばなのです。
「動物の病院」はどうだろうかと「名詞+の+病院」を見ていくと、「人間の病院」という言い方が目にとまりました。用例を引用します。
・人間の病院と同じ事が動物病院でも確実におきています。
・それによると・・・まず、動物病院は、人間の病院と違い、建築できる場所が
限られてくる。
・人間の病院よりも動物病院の方が料金に差があるみたいですから、あちこち
回ったほうがよさそうですよね。
「動物病院」に対して、「人間の病院」という言い方がされるのですね。「病院」にかかるのは人間に限らないので、わざわざそう言う必要があるわけです。
私の見た国語辞典の中には、「動物」も「病院」へ行くのだということを書いたものはありませんでした。
まあ、書いてなかったからどう、というほどのことでもないんですが…。
やっぱり、国語辞典編集者にはペットを飼っている人、動物病院へ行ったことのある人は少ないのでしょうか。
植物は、病気になったらどうするのか。「植物のお医者さん」という仕事はどうなっているのでしょうか。そういう仕事はありそうだとは思いますが、何と呼ばれているのでしょうか。
農業試験場の専門家とか、「植木屋さん」、「花屋さん」がそれに当たる?
「樹木医」ということばを聞いたことがあるように思いますが、花は?
まあ、「植物病院」はなさそうですね。