ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

広辞苑と形容動詞(2)

前回の続きです。

前回は、広辞苑(第五版)の「文法概説」が形容動詞について説明している部分を紹介しましたが、どうも不明瞭な説明でした。

ここでいちばん問題なことは、「文法概説」の「形容動詞を認める立場」の紹介が、形容動詞と名詞の違いについてもっとも重要なこと、一般に第一にあげられることをなぜか述べていないということです。

それは、連体修飾の形、名詞を修飾するときの形の違いです。

前回紹介した「文法概説」で例として出されている「男性」と「親切」で言えば、「男性の母親」「親切な母親」の「の/な」の違いです。(「×男性な母親」「×親切の母親」とは言えません。)

日本語教育の立場から言うと、初級段階でこの名詞と形容動詞の区別をしっかり教えておかないと、いつ、「~な」の形で連体修飾するのかということがわかりません。

よく話題になる例をあげると、「病気の人」と「元気な/健康な 人」という対になる表現の「~の/な」の使い分けがあります。

その人の身体の状態を表すちょうど反対の概念なのですが、「病気」は「病気な人」とは普通言いません。「病気の人」と言います。
それに対して「元気・健康」は、名詞を修飾するには「~な」の形を使います。
そこで、「病気」は名詞とされ、「元気・健康(な)」は形容動詞とされます。

ここで注意すべきことは、「病気」は<名詞だから>「~の」の形で名詞を修飾する、と考えるのではない、ということです。<「~の」の形で名詞を修飾するから>名詞と見なす、のです。

(もちろん、名詞であるということは、学校文法風に言えば「「~が」の形で「主語」になる」ということが必要です。もっと一般的に言えば、「ガ・ヲ・ニ」などの格助詞がついて「補語」になることができる語です。)

それと同様に、「元気・健康」は「~な」の形で名詞を修飾するので、形容動詞と考えるわけです。

ここでもう一つ注意すべきことは、「元気・健康」は「~の」の形で名詞を修飾することもある、つまり名詞でもある、ということです。「元気が出る・元気を出す・元気の源」「健康が大切だ・健康に気を付ける・健康の重要性」のように、名詞としての用法を持っています。
(「きれい・しずか・すこやか」などはそうでないので、名詞ではありません。)

形容動詞の中には、この「元気・健康」のように名詞としての用法を持っているものがあり、そのことが形容動詞と名詞との区別を複雑なものに見せているということがあります。

 

学校文法で形容動詞を教える際には、名詞との違いとして、この連体修飾の「~の/な」の違いを必ず説明するはずなのですが、広辞苑(第五版)の「文法概説」では、なぜかそのことは一言も触れられていません。

 

以上、広辞苑の第五版について述べてきました。第六版は、付録が別冊になったということを除いて、「文法概説」そのものには変化がありませんでした。

第七版になって、「文法概説」が大きく書き換えられました。そのことはまた次回に。