ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

ウイット

イた三省堂国語辞典の問題点です。

 

  ウイット〔wit〕気のきいた<ことば/しゃれ>。「-に富んだ話」

 

「ことば/しゃれ」なのか、という問題です。

 

   新明解 (略)気のきいた言葉やしゃれがとっさに出せる才知。機知。「-に富んだ話」

 

「(略)」とした部分の話はまたあとでするとして、三国の「ことば/しゃれ」に対して、新明解は「言葉やしゃれがとっさに出せる才知。機知。」だとしています。

他のいくつかの辞書も、「才知。機知。」としています。「ことば/しゃれ」自体ではありません。

英英辞典を見てみると、

      wit the ability to say or write things that are both clever and amusing  (OALD 6th ed.)

で、「 ability 」です。

もちろん、英語での意味が、日本語に外来語として入って変わることはよくあることですが、「ウィット」はその例でしょうか。それならば、それを示す用例をいくつか並べて示すべきでしょう。

三国と新明解は、語釈が違いながらも同じ用例をあげています。どちらでも用例の意味は成り立つからでしょう。

私は、単に三国の誤りだと思います。

 

さて、新明解の(略)の部分を見てみます。

 

  気まずさや相手の無神経な言動、攻撃的な態度などを やんわりとかわして、その場の空気を和らげたり 自分に有利な情勢をもたらしたり する、気のきいた言葉や しゃれが とっさに出せる才知。機知。
         [新明解国語辞典第七版]

 

「気のきいた言葉やしゃれ」をより具体的に説明しています。 頑張っているのはよくわかるのですが、限定しぎているんじゃないかなあ、という印象です。

 

追記

読み直してみて、新明解の長い修飾部は「気のきいた言葉やしゃれ」にかかるのではなく、「才知。機知」にかかるとも考えられる、ということに気付きました。どちらでも結局は同じこと、と言っていいでしょうか。 

ウイング

三国の語釈が不十分な例です。スポーツの用語です。

 

  ウイング  ②〔サッカー・ラグビー・ホッケーなどで〕両はしの位置(の選手)。  三国

 

サッカーで「ウイング」というのは、フォワードの選手を言います。守備の選手が「両端の位置」にいても、「ウイング」とは言いません。

新明解は、「前衛の左右両端」と言っています。

 

  新明解 ③〔サッカー・ハンドボールなどで〕前衛の左右両端の位置(に着く人)。

 

サッカーの場合はこれでいいのですが、ラグビーでは「バックス」(つまり、「前衛」ではありません)の両端を言います。

 

     旺文社 ②サッカーのフォワードやラグビーのバックスなどで、左右両はしの位置。また、その位置につく選手。

 

では、サッカーの「フォワード」とラグビーの「バックス」の共通点はと言うと、

 

      学研 ③サッカー・ラグビーハンドボール・バレーボールなどで、左右両端の攻撃位置(につく人)。

 

「攻撃位置」であることですね。ただ、私はラグビーをよく知らないので、ラグビーの「フォワード」「バックス」の役割・作戦がどうなっていて、ラグビーでの「攻撃」とはどういうものかはわかりません。

学研の「攻撃位置」でピッタリなのかどうか、そこは詳しい方にお聞きしたいところです。

 

 

ウーロン茶

新明解がおかしい項目です。

まずは三国の安定した語釈から。

 

  ウーロンちゃ[烏龍茶] 色が紅茶に似ている、あっさりとした味の中国茶。〔「ウーロン(烏龍)」は中国語。茶の葉の仕上がりの形が竜の爪のようだという〕

 

「色が紅茶に似ている」という部分、うるさいことを言えばいろいろあるかもしれませんが、わかりやすくていいでしょう。日本茶(緑茶)とは違うのだということ。

 

  明鏡 茶の葉を半発酵させてつくる中国産の茶。赤褐色で独特の香りがある。

 

明鏡は「赤褐色」と言っています。三国の記述と合わせると、ウーロン茶=紅茶は赤褐色ということになります。旺文社は紅茶の色をそう書いています。

 

      紅茶 茶の木の若葉を摘み取り、発酵・乾燥させてつくった茶。湯を注ぐと汁が紅褐色を帯びるところからいう。  (旺文社) 

 

さて、新明解です。

 

  新明解 〔ウーロンは、「烏龍」の中国音。色が烏のように黒く、葉が竜のように曲がっているところから〕独特な香気がある、茶の一種。中国本土・台湾産。

 

この「色が烏のように黒く」というのは、やはり茶の色の話でしょう。次に「葉が竜の~」とありますから。「赤褐色」ではないようです。

それと、「葉が竜のように曲がっている」というのも変です。「竜のように」というと、くねくねと何回も曲がった形になってしまいます。そうでしょうか。

三国は「竜の爪」と言っていましたね。岩波もそうです。

 

     岩波 (略)葉が、色は烏に似て黒く、形は竜の爪に似て曲がっているところからの名という。

 

岩波は、「烏に似て黒」いのは葉だと言っています。そして、葉の形は「竜の爪に似て曲がっている」と。

この食い違い、私には新明解の間違いに思えるのですが。

新明解は、変なところで他の辞書と違う傾向があります。

 

ウェーデルン

三省堂国語辞典から。この「ウェーデルン」ということばを知らなかった人は、次の説明でどういう意味かわかるのでしょうか。

 

  ウェーデルン〔ドWedeln〕〔スキーの〕連続小回り回転。

 

小回りに連続回転するとは、ぐるぐる回るだけ? フィギュアスケートのスピンのように? まさか。

それとも、犬が自分のしっぽを追いかけるように、小さな円を描くように回る?

他の辞書を見ると、もう少しわかってきます。


    新選 スキーで、小きざみに連続して回転しながらすべる技術。
    集英社 (スキーで)小回りの回転を連続的に行いながら滑降すること。また、その技術。

 

まず、「回転」というのは「回転しながらすべる」ことであること。当たり前だといってはいけません。フィギュアの「スピン」は「すべりながら」ではありません。スキーでも、モーグルだと空中で回転したりしますし。

さらに、スキーの「回転」の場合は「すべる」のと同時に「滑降する」ことが必要で、新選は(三国よりはいいとしても)不十分です。(cf. 距離競技) 

それにしても、どこでどう「小回りの回転」をするのか、ここでの「回転」とはどうすることか、集英社の説明でもわかりません。

 

  回転 (名・自他サ) [1] ①軸を持つものが、まわること。また、まわすこと。「エンジンの-・-いす」②一つの点を中心にして、(まわりを)まわること。「腕を-させる・頭の-〔=はたらき〕がはやい」③〔経〕(略) [2]〔←回転競技〕スキーの、アルペン種目の一つ。旗門の間が短く、最も小刻みなターンの技術を要する。      (三国)


[2]がスキー用語で、「回転」とは「回転競技」のことだというのですが、それでは「連続小回り回転」がどういう「回転」なのかはわかりません。

とりあえず、この [2] の説明に出てくる「アルペン・旗門・ターン」をみてみましょう。

 

  アルペン〔ドAlpen=Alpの複数形〕①アルプス。「-ルート」②←アルペン種目。

   ・-種目〔スキー競技で〕滑降・回転・大回転・スーパー大回転、およびその複合競技。アルペン(スキー)。→:ノルディック種目。   (三国)

 

ここの「回転・大回転」は種目の名前ですから、やはり「連続小回り回転」の「回転」とは違うでしょう。

 

  旗門 スキーのアルペン種目で、コースを示したポール(に旗がついたもの)。(三国)

 

上の「回転(競技)」の説明の中で、「旗門の間が短く」とありますが、「門」なのだから両側に旗があって、その間隔が短い、ということでしょうか。それなら「狭い」のほうがいい?(知らない、わからない、というのは、こういうことです)

 

  ターン ①回転(すること)。②進路を変えること。「U-」③(水泳などで)折り返し。


「回転(競技)」の中の「最も小刻みなターンの技術」の「ターン」はこれらのどれに当たるのでしょう。「回転競技」なのだから①の「回転」

結局、「回転」の意味は、上の「回転」の 語釈の①、②から考えるしかないようです。②だと、「一つの点を中心にして、まわりを回ること」? スキーで? 

「回転競技」をほかの辞書で引いてみましょう。

 

   集英社 スキー競技のアルペン種目の一つ。斜面のコースにジグザグに設けられた規定の数の旗門を通過しながら滑り降り、タイムを競うもの。スラローム

    例解新 スキーのアルペン競技の一つ。斜面に立てられた決まった数の旗を、順に右左交互にまわってすべりおり、その速さをきそう。   

 

集英社の「斜面の~旗門を通過しながら滑り降り、タイムを競う」という説明はていねいです。三国の、非常に省略した、「わかる人にはわかる」説明よりはるかにわかりやすく説明しています。

また、例解新の「旗を、順に右左交互にまわってすべりおり」というところで、「旗門」を通るために(まっすぐ滑るのでなく)回り込む、ことを「回転」というらしい、ということが(なんとなく、ですが)わかります。この「右左交互に」とは、「ターン」の「②進路を変えること」です。

しかし、こうは言ってみても、そうわかるのは既にテレビなどで競技を見て知っているからでしょう。あるスポーツを、全然知らない人に説明するのは非常に難しいことです。


初めに戻って、「ウェーデルン」の「回転」とは、「回転競技」で旗門を回るためにターンするのと同じような動作のことで、「ウェーデルン」は、そのターンをくり返し、小刻みに行うこと、ぐらいに理解すればいいのでしょうか。(正確なことは、私にはわかりません)

三国の「連続小回り回転」という語釈を見て、そもそも「滑り降りる」のは当然であること、そしてそこでの「回転」の意味もわかる人は、既にすべて知っている人でしょう。つまり、三国の語釈は、「その語の意味がわからないから辞書を引いた」人への説明としてはまったく役に立っていない、と言わざるを得ません。

 前にも書いたことですが、三国の語釈は、その意味を元々知っている人にとっては「要するにどういうことか」がうまくまとめられているのかもしれませんが、その語釈を頼りに、その語の意味を知ろうという人にはまるで役に立たないことが時々(しばしば?)あります。改善してほしい点の一つです。

 

ウエート

三省堂国語辞典の記述が不足している項目です。

 

  ウエート (名) ①重量。重さ。②重み。重要さ。▽ウエイト。・ウエートを置く [句] 重くあつかう。  (三国)

 

まず、用例がありません。「ウエートを置く」は、それ自体が項目として用例を必要とするものですから、「ウエート」の用例とは見なせません。

①の用法で、「重量」は「ウエート」で置き換えられるかどうか。

  この荷物の重量は?

という時、

  この荷物のウエートは?

と、ふつう言うかどうかということです。

 

 明鏡 ①重量。特に、体重。

 

明鏡は「特に、体重」としています。これだけでも三国よりはいいと思いますが、

  私は毎日ウエートを量っています。

と言う人はあまりいないでしょう。

どういう場合の「体重」なのか、新明解がはっきり規定しています。現代例解には用例がついています。

 

 新明解 ①〔ボクシング・レスリングなどの選手の階級を決める〕体重。

 現代例解 ①重量。特に体重。「ウエートがオーバーする」

 

ただし、現代例解の例は、どうして「オーバー」なのかわかりません。その基準は何なのか。

新明解の語釈と、現代例解の用例を合わせると、よりよくなります。

 

三国に戻って、①の「重さ」と、②の「重み」の違いはなにか。「重さ」は「重量」の言い換えで、「重み」は「重要さ」の言い換えだということでしょうか。

 

  重さ ①重い<こと/程度>。「責任の-」②ものを、台ばかりにのせてはかる数値。目方。重量。〔物理学では、物体に加わる重力の大きさ。無重力状態では、重さはゼロになる〕→:質量

  重み ①重く感じる<こと/程度>。「雪の-」②どっしりとしておちつきのあること。「-のある態度(⇔軽み)③たいせつな価値。「-のある発言・歴史の-」

 

 「ウエート」の①は「重さ」の②、「ウエート」の②は「重み」の③ということでしょうか。
 でも、「責任の重さ」は「重要さ・大切さ」でもあるでしょう。

やはり、それぞれにきちんと用例をつけておけば、語釈の不十分さを補って、利用者にわかりやすいものになるのでしょう。

 

つぎに、[句] としてとりあげられている「ウエートを置く」ですが、単に「重くあつかう」でいいのでしょうか。これには、「ウエート」以上に用例が必要です。「置く」に対して「どこに/何に」を表す名詞を示さないと、「重く扱う」ことの意味合いがわかりません。

 

  新明解 ②重点。「…に-を置く〔=重要なものとして扱う〕/-を掛ける/-は低い(小さい)」

  現代例解 ②重要度。重点「<置く>少子化対策にウエートを置く」「<占める>ウエートを占める」 

 

新明解は「…に」という形で「名詞+に」が来ることを示しているのですが、具体的な名詞がないと、どうも明解にわかった気になれません。

現代例解は、「置く」の例には「~に」の名詞を示していてわかりやすいのですが、もう一つの「占める」の例はどうも中途半端です。これをもっといい形の用例にしてくれたらよかったのですが。

他の辞書の「ウエートを置く」の例を並べます。

 

  明鏡「英語に-を置いて勉強する」  岩波「一方の立場に-をかけて分析する」

  新選「内申書に-をおく」 学研「健康に-をおく」

  三省堂現代「問題のどこに-をおくか」  集英社「面接にウエートを置く」

  例解新「健康保持にウエートをおく」

 

これらの用例を眺めていると、つくづく用例の重要さということを感じます。

「ウエートを置く」という表現が、どのようなものごとに対して使われるのか、そしてその意味合いは単に「重くあつかう」というだけでは表せないような、いくつかの選択肢の中から一つを選び、他と比べてそれを特に「重くあつかう」のだ、ということがわかってきます。

これらの辞書も、一つだけの用例ではなく、複数の例をあげたほうがよりよい辞書になるでしょう。辞書全体の大きさをどう考えるか、という問題が立ちふさがるのですが。

用例が一つもない三国は、この項目に関しては、これらの辞書に劣ると言わざるをえません。

 

ウエーブ

新明解の「独自性」(?)の一例を。

まずは三省堂国語辞典の「ウエーブ」の項を。

 

  ウエーブ〔wave=波〕①電波。「マイクロ-」②かみの毛を、波をうったような形にととのえ<ること/た状態>。「-がよく出る」③〔競技場やイベントの会場で〕観客がつぎつぎに立ち上がってはすわる、波うつような動き。「-が起こる」▽ウェーブ。

 

この③の用法について、ほとんどの辞書が同じような説明をする中で、新明解だけが独特の解説をしています。


     新明解 ④〔競技場や球場で〕声援を送るために、多数の観衆が互いに肩を組んで左右にからだをゆすり、波が生じたような動きを見せること。

 

「立って、座って」ではなく、「左右に体を揺する」というのです。(もちろん、立った状態で、でしょう)

これは野球の観客にありそうな話(大学野球?)だと思いますが、どうでしょうか。しかし、それを「ウエーブ」と言っているのかどうか。

 

サッカーなどのウエーブは海外由来のようで、wikipediaに解説があります。(野球でも同じようです)

何にせよ、新明解は不十分でしょう。

ウエスト

エストポーチからウエスト本体の話へ。

三省堂国語辞典から。

 

  ウエスト(名)〔waist〕〔服〕①胸と腰の間の細くなっている部分(の寸法)。胴まわり。〔Wで示す〕②〔女性の衣服で〕「ウエスト①」の部分。「-ライン」

 

三国によれば、ウエストとは「胸と腰の間」です。すなわち、「胴」のまわり。新明解も同じです。

 

  新明解  胸と腰の間の一番細くくびれた所(の太さ)。〔狭義では、婦人服のその部分を指す〕

 

「細くくびれた所」です。そこで、いわゆる「スリーサイズ」の一つになるわけでしょう。

しかし、岩波ははっきり違います。

 

  岩波  腰。衣服の胴部。

 

エストは「腰」です。「胸と腰の間」ではありません。しかし、衣服では「胴部」で、三国・新明解と同じです。さて、これはいったいどういうことか。

大辞泉を見てみます。

 

 大辞泉 腰部。肋骨(ろっこつ)と骨盤の間のくびれた部分。

 

おや? 「腰部」とはつまり「腰」ですよね。でも、「くびれた」部分。「腰」とは「くびれた部分」ということになって、新明解の「胸と腰の間の一番細くくびれた所」と対立します。 

三国と新明解は、ウエストとは「胸と腰の間」と言っているのですが、複合語になると少し違ってきます。

 

  ・-ニッパー 女性の下着の一種。腰のまわりをしめつけて、すらりと見せる。(三国)

 

新明解も同じです。でも、「腰のまわり」をしめつけてどうするのか。「ウエストニッパー」なのだから、三国・新明解の言う「胸と腰の間」つまり「ウエスト」をしめつけないと。(しつこくてすみません)

 

  新選  女性用下着の一つ。ウエストの部分を締めて細く見せるためのもの。

 

新選は、「ウエストの部分」を締めています。当然でしょう。

腰のまわりかウエストか。そもそも「腰」とはどこなのか、です。

 

  腰 足が胴体につながったところで、からだを回したり、曲げたりする部分。「-を締める・-をかがめる・-をおろす」     (三国)

 

どうも今一つはっきりしません。「足が胴体につながったところ」では漠然としすぎていないでしょうか。
「締める」のは、上で見たように、ウエストでしょう。「おろす」のはむしろ尻です。

結局、「腰」がきっちり決められないから、「ウエスト」と「腰」の関係がはっきりしないのでしょう。

 

新明解の「腰」。 

  新明解 腰 胴体の下部で、上体と下肢をつなぐ部分。直立する・すわる・屈曲するなどの軸となる重要な部位。輪郭のくびれている部分をウエストと言い、骨盤の両側で大腿(ダイタイ)の上端に当たる部分をヒップと言う。

 

新明解はウエスト・ヒップどちらも「腰」とします。それはそれで一つの解釈でしょうが、そうすると「ウエスト」の「胸と腰の間の細くなっている部分」と矛盾します。執筆者・編集者はこの矛盾に気付いていないのでしょうか。

 

明鏡の「腰」。 

     明鏡 腰 ①胴体の下部で、脊椎が骨盤と連絡している部分。上半身を曲げたり回したりするときの基点になる。腰部。「━が曲がる」「━をおろす」
   ② ①の周り。ウエスト。「細い━」

 

明鏡は②で「腰」の周りはウエストだとしています。でも、明鏡で「ウエスト」を見ると、

 

  明鏡 ウエスト 腰と胸の間のくびれて細くなった部分。胴回り。また、衣服の胴回り。略号W 

 

で、やはり「腰と胸の間」です。「腰の周り」ではありません。明鏡は明鏡で、矛盾しています。

さて、それぞれの「ヒップ」を引いてみると、

 

    ヒップ

    [hip] 尻しり。また、尻回り(の寸法)。[明鏡]
      〔hip=尻(シリ)〕腰回り(の寸法)。 [新明解]

 

となります。新明解は「尻」の回りを「腰」回りと言っていることになります。

明鏡は、「胴回り」と「尻回り」で、「腰回り」は使いません。

三国はというと、

 

  ヒップ ①(女性の)尻。「みごとな-」②〔服〕尻のまわり(の寸法)。腰回り。〔Hで示す〕「-サイズ」 (三国)

 

こちらははっきり「尻のまわり」を「腰回り」とも言っています。(①の用例は、こういうのを出していいのかなあ、と思いますが)

 

大辞林の「腰」。

 

     大辞林 人体で、脊柱の下部から骨盤のあたり。体の後ろ側で胴のくびれているあたりから、一番張っているあたりまでを漠然とさす。上体を曲げたり回したりするときの軸になり、体を動かしたり姿勢を保ったりするときに重要なところ。人間以外の動物にもこれをあてて言うことがある。「-を下ろす」


 「漠然とさす」というのが正直なところでしょうか。「体の後ろ側」というのも他にない言い方です。(では、前側は何と言うのでしょうか。)

 

世界大百科事典 第2版の解説を見てみます。


   こし【腰】一般に背骨の下部,上半身を曲げたりひねったりすることのできる部位を指す語。解剖学的には腰部の範囲は狭小だが,日常語としての〈こし〉が指す部分はあいまいで広い。〈こしぼね〉には寛骨や仙椎も含まれ,〈こしをかける〉とは実は尻をかけることである。柔道で相手を臀部に乗せて回し投げる技を腰車という。武士は腰刀を側腹部に差していた。くびれた腰の線とは側腹部を後ろから見た輪郭のことである。このようなあいまいさは他の言語にもある。

 

「日常語としての〈こし〉が指す部分はあいまいで広い。」というのはいいのですが、最後の、「このようなあいまいさは他の言語にもある」というのは、確かにそうでしょうが、ここで言うことかなあ、とも思います。

 

さて、私なりの結論は、「腰」があいまいなのはしかたないとして、「ウエスト」の語釈に「胸と腰の間」と書くのはよくないだろう、ということです。

「腰の上部の細くなったところ」(「細くなっ」ているかどうかは人にもよるのだけれど、と我が身を省みて思うところです)とでもするのがいいのではないでしょうか。