ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

日曜・週

軽い話です。

「日曜」について、他の辞書と違うことを書いている辞書があります。
まず一般的なほうから。明鏡国語辞典

 

  日曜 週の第一日。土曜の次の日。日曜日。官公庁・一般企業・学校などでは
     休日とする。   明鏡

 

そういうことだよね、と思います。

 

  日曜 曜日の一つ。週の第一日で、役所・学校などが休日とする。「―日」「―大
     工」「―画家」   岩波

 

岩波もほぼ同じ。

 

  日曜 一週の第一日。日曜日 。週の始まりを月曜とすれば、一週の週末。「-画家・
    -大工〔=日曜などの休日に、自分の家の大工仕事をすること(人)〕」 新明解

 

新明解はちょっと違って、「一週の第一日」としながらも、「週の始まりを月曜とすれば、一週の週末」とも書いています。はて。

「週」または「一週」とはどこから始まるのかについて、考え方の違いがあるのです。

 

  週 日曜から土曜までの七日間を単位として区切った期間。一週間。  明鏡

 

明鏡は日曜から始まるとします。だから、「週の第一日」。

 

  週 七日間を一めぐりとする時間の単位。   岩波

 

岩波ははっきり書いていませんが、上の「日曜」から考えれば、明鏡と同じでしょう。

新明解は、別の「見方」を紹介しています。

 

  一週 日曜日に始まり土曜日に至るまでの七日間をまとめて呼ぶ呼び方。〔月曜日
    に始まり日曜日に至るまでとする見方もある〕   新明解

 

三国は違う書き方をします。

 

  一週 ①月曜日から日曜日(または、日曜日から土曜日)までの七日間。  三国

 

「月曜日から日曜日」を先に書き、つまり主とし、「または、日曜日から土曜日」と書いています。

では、「日曜」は。

 

  日曜 一週の最後の日。六日間働いたあとの休息の日。土曜の次。日曜日。
    〔カレンダーは、ふつう日曜から始まる。〕  三国

 

「一週の最後の日」なんですね。しかも、「六日間働いたあとの休息の日」だそうです。三国の編集者はクリスチャンなのかしら。(聖書の神様の話。「天地創造」を六日間で行い、次の日は休息した。)

まあ、確かに、最初に休んで、それから何日も働くのと、働いた後に休みがあるのとどっちが心理的にいいかというと、私は、後に休みがあったほうがいいですね。「朝三暮四」みたいな話ですが。(そもそも、週休二日じゃないのはいいんでしょうか。三省堂は週六日出勤?)

「日曜」のかっこの中は面白いですね。「カレンダーは、ふつう日曜から始まる」ことと、日曜が「一週の最後の日」であることの関係はどうなっているのか。そこは説明せず、カレンダーに代表される一般の意識も一応紹介するけれど、「日曜」が「一週の最後の日」であることは譲らない。

前に、「2017-11-04  ウイーク・週」という記事を書いたことがあります。その時も三国の「一週」の解釈が他と違うことに気づいていたのですが、あまり問題にしませんでした。まあ、大したことではない、と。「日曜」は引いてみませんでした。

 

しかし、考えてみれば、これはけっこう影響の大きいことではないかと思います。
例えば、日曜日から始まるある月の4日、水曜日に、「今週の日曜日」あるいは「来週の日曜日」と言った場合、それは何日を指すのか。

     日  月  火  水  木  金  土
     1  2  3   [4]   5  6  7
     8  9  10  11  12  13  14
     15

このカレンダーのように「週」を考えれば、「今週の日曜日」は1日になりますが、三国派、「一週」は月曜から始まり、日曜はその最後の日と考える人にとっては、8日になるんじゃないか。

そして、「来週の日曜日」は15日になる…。

これ、人と会う約束をする時なんか、かなりまずいことになりそうで。
例えば恋人とデートの約束、あるいは遠出の約束をする時に、「来週の日曜日」というだけで日にちを確認しないと、相手が「三国派」だった場合、8日か15日かで大きな誤解につながる…。

「いや、8日でしょ」「何言ってんの。来週の日曜日って言ったら、15日に決まってるでしょ。」というような争いになってはいけない。

 

三国はいつからこういう解釈だったのだろうと思って、持っている古い版を見てみました。

第二版。

 

  日曜 一週のはじめの日。土曜の次。日曜日。   三国第二版

 

おお、「一週のはじめの日」です! この時(1980年)はこう考えていた。

私は残念ながら第三版を持っていないので、次は第四版です。

 

  日曜 一週の最後の日。六日間はたらいたあとの、休息の日。土曜の次。日曜日。
    〔カレンダーは、ふつう日曜から始まる。〕  三国第四版(1992)

 

この第四版は、見坊豪紀が主幹であった最後の版ですね。見坊が隅々まで見ているでしょうから、これは見坊の考えでしょう。なぜ、変えたのか。どうしてそう考えたのか。
いつ変わったかはそれほど重要でないかもしれませんが、第三版も見てみたいですね。

 

「日曜日が週の第一日」派の弱点は、「週末」とか「週明け」という言い方では、日曜が「週末」に含まれ、「週明け」は月曜であることでしょう。

 

  週末 一週間の終わり。ウイークエンド。〔ふつう土曜・日曜をさす〕  三国

  週末 一週間の終わりごろ。金曜・土曜から日曜にかけてをいう。ウイーク
     エンド。                           明鏡

  週末 その週の終り。ウイークエンド。〔日曜から週が始まると考えた場合も、
    月曜から週が始まると考えた場合も、土曜の午後もしくは金曜の夕方から
    日曜にかけての仕事休みを指す〕「-旅行」→週初・週央      新明解 

 

  週明け 新しい週が始まったとき。〔通常は月曜日〕          三国

  週明け 新しい週が始まること。ふつう、月曜日をいう。「━に赴任する」 明鏡

  週明け 〔勤め人にとって〕その週の仕事が始まる月曜日(になること)。
      「-の外国為替市場」                    新明解

 

新明解の注記はどちらもなかなかていねいです。

しかし、この場合の「週」は、「労働する日」を中心にした考え方でしょう。まさにキリスト教の神様のように。「週明け」は言うまでもなく、「週末」も「一週間の終わりのほう」というよりも、週の中核をなす部分が終わって、そのあとの残った部分、という感じです。

そうではなくて、一週間全体をまずとらえて、さてどの日から始まるとするか、と考え、束縛される労働の日ではなく、自由に行動できる日曜をまず重要な日とし、最初に置く、という考え方。あとは暗い労働の日々…。(土曜日も休みになるのはずっと後の話。)

ふーむ。どうも話の筋立てにちょっと無理がありますかねえ。
「働くこと」を人間としての重要な営為と考えるのでなく、できれば避けたい事柄とみなしている私の基本的な態度に影響されているような。

 

でも、そもそもカレンダーで日曜を最初に置くのはなぜなんでしょうね。いつごろからの習慣なのか。

前の記事では、英英辞典の次のような説明を引用しました。

 

    week   a period of seven days and nights, usually mesured in Britain from Monday to
      Sunday and in the US from Sunday to Saturday 
    weekend   Saturday and Sunday, especially considered as time when you do not work 
                          (LDCE 4th. ed.)
 
「week」は、イギリスとアメリカで違うと言っています。

しかし、イギリスのカレンダーは日曜が終わりにあるのでしょうか。そうではないとすると、さて。

何にせよ、三国が他の辞書とははっきり違った解説をしているのは興味深いことです。そうする理由は何なのでしょうか。日本人は「日曜」を週の最後の日だと考えているのだという、しっかりした根拠を持っているのでしょうか。(つまりそれは、他の辞書の解説は間違っているのだという強い主張にもなるわけです。)

三国と、新明解その他の辞書を作っている三省堂編集部の人は、どう考えているのでしょうか。