ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

親類・親戚

久しぶりに。

「親類」と「親戚」は、その指すもの、つまり意味は同じだと言っていいと思いますが、文体的にどう違うのか。国語辞典によって意見が分かれます。

 

[1]意味は同じだと言う辞典。

  親類  1親戚しんせき。
      2よく似たもの。同類のもの。「カレイとヒラメは━だ」 

  親戚 血縁関係や婚姻関係によってつながっている人々。親類。   明鏡 

  親類 おじ・おば、いとこなどの、血のつながった<人/人々>。親族。親戚。
     みより。 

  親戚 1親類。2同類。「ポトフはおでんの-」       三国

  親類 1血縁や婚姻などによる、つながりの関係がある人。身内。血族・姻族の
      総称。「あの人はぼくの-筋に当たる」
     2比喩的に、同類と見たもの。「梅の-の桜」

  親戚 親類。みうち。               岩波

 

どの辞書も「親類」は「親戚」で、「親戚」は「親類」だとしています。

それでも、多少の違いはあります。

まず、比喩的な「同類」のものも言えるのは「親類」だとする明鏡に対して、三国は「親戚」のほうに「同類」の意味があるとします。岩波は、はっきりしませんが、両方言えるということでしょうか。

私も、両方言えるんじゃないかと思います。

そして、その「同類」の範囲ですが、動植物(系統樹上、確かに親類と言えるでしょう)を例にしている明鏡と岩波に対して、三国は「ポトフとおでん」という意外な組み合わせを出しています。似たようなものだ、というのはそうだとしても、親戚というより他人の空似のようにも思えますが。まあ、いいんでしょうか。

 

[2](文体的に)違いがあるとする辞典。

 2-a 「親戚」は「親類」の「改まった・硬い」表現だとする辞典。

  親類 1おじ・おばや いとこや おい・めいなどの血縁関係や婚姻関係でつながりが
      ある人で、別の世帯に属する人。親戚(シンセキ)。「遠くの-より近くの
      他人/-縁者」 
     2〔生物の世界で〕同類だと見なされるもの。「ネコはトラ(カキツバタ
      アヤメ)の-だ」
  親戚 「親類」のやや改まった表現。       新明解

(以下、違いに関する部分だけ引用します。)

  親戚  「親類」のやや改まった言い方。     講談社類語

  「親類」「親戚」は大差ないが、「親戚」のほうがやや硬い言い方。
                              小学館日本語新

 

新明解の「別の世帯に属する人」という指摘は重要です。「血縁関係」があるというだけなら、例えば兄弟も含まれてしまいます。「家族」は別にしないといけません。こういうところ、新明解は注意深いです。

以上の辞書の、「親類」のほうが一般的な言葉だというのは、私の感覚と同じです。私はずっとそう思ってきました。

 

2-b いや、「親類」のほうが「やや古い・硬い」言い方だとする辞典。

  親類 「親戚」のやや古い感じの言い方。  例解新九版  

        「親戚」のやや硬い表現。      新明解類語

 

これは意外でした。これはこの編集者たちの感覚なのか、何らかの資料に基づいているのか。(私の感覚も、何の根拠もないのですが。)

同じ「新明解」の名前を付けていても、国語辞典と類語辞典で違うというのは問題ですね。よくあることですが。