ことば・辞書・日本語文法(2)

日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

受け入れ

おや、と思うところを見つけたのでその報告を。

まずは現代国語例解辞典から。「受け入れ」という語の、ふつうの意味での使い方はいいとして、ちょっと特殊な用法についての記述の問題です。

 

  受け入れ [2] 会計帳簿上の収入。または貸方。

 

ここの「貸方」の意味はわかりませんが、それは気にしないことにして、集英社国語辞典で同じ項目を見ると、

 

  受け入れ ② 会計帳簿上の収入。または借り方。⇔払い出し

 

となっています。

「貸方」「借り方」というのは、その分野の用語で、特別な意味を持つのでしょうが、素人考えでも同じことを指すとは思えません。

 

現代国語例解と同じ出版社(小学館)の日本国語大辞典も「貸方」です。

大辞林大辞泉の「受け入れ」には「貸方/借り方」という記述はありません。

さて、どういうことなのでしょうか。 ふつうに考えればどちらかが間違っている(おそらくは集英社?)のでしょうが、誰か専門家に聞いてみないと。

 

ウインター

だんだん三省堂国語辞典の外来語特集になってきました。今回は「ウインター」です。

 

  ウインター(名) 冬。「-スポーツ」

 

「ウインター」は確かに「冬」で、それ以外のものではありません。前回の「ウイッグ」を「かつら」とした時のような、意味の広がりの違いということもなさそうです。しかし、やはり問題があります。

それは、(名)という品詞の指定のところです。

名詞である、ということは、

  ウインターは/が ~

とか、

  ウインターを/に/の ~

あるいは、

  ~のウインター

などの使い方がある、ということです。

例えば、「ウインターがやってきた」とか、「今年のウインターはどこへ行こうか」とか、「寒いウインターをどう過ごすか」などの言い方をふつうはしないとするなら、「ウインター」は確かに「冬」を意味するけれど、日本語の中でふつうに名詞としては使われない、ということです。

では、どう使われるのか。他の多くの辞書は、「ウインター」を項目として立てていません。立てるべき項目として気付いていないのではないでしょう。逆に「ウインタースポーツ」を項目とする辞書があります。三国は、「ウインター」の用例としてあげているだけですが、他の辞書の編者は、説明が必要な語だと考えているのでしょう。

 

  新明解

   ウインタースポーツ 冬季に行われるスポーツ。スキー・スケートなど。

  明鏡

   ウインター-スポーツ 冬季に行われる運動競技。スキー・スケート・アイスホッケー・そり競技・カーリングなど。

 

「ウインター」が、他の語と結びついて使われるのが基本的用法なら、それは「造語成分」で、(造語)とすべきものです。もし、名詞として使われるというなら、「ウインタースポーツ」のような例ではなく、助詞を付けた例をあげるべきでしょう。

なお、次の三省堂現代の項目の立て方・用例は、どうも間が抜けている、と言っては失礼でしょうか。

 

  三省堂現代

   ウインター 冬。「-スポーツ」

   ウインタースポーツ 冬のスポーツ。スキー・スケートなど。

 

せめて前者の用例を複数にするか、他のものにしたほうがいいのではないでしょうか。

 

ウイッグ

また三省堂国語辞典です。どうも「う」の初めあたりの項目はうまく書けていません。

 

  ウイッグ かつら(鬘)。ウィッグ。

 

説明はこれだけです。「ウィッグ」は別の表記、あるいは発音の問題ですから、意味の説明は「かつら」だけです。

しかし、誰でもすぐ気付くように(ですよね?)、「ウイッグ」は「かつら」と同じではありません。

 

  かつら  ①かみの毛などで美しく作り、外出するときなど頭にかぶるもの。②〔芝居などで〕頭にかぶって扮装するもの。▽かずら。

 

①のほうは、(「ウイッグ」の説明として)いくつかの点で足りないところがあるのはともかくとして、まあ一応の説明になっているとは思うのですが、「かつら」には②の意味もあります。それを「ウイッグ」とは言わないでしょう。

ですから、少なくとも「かつら①」とすべきです。(演劇関係者は「ウイッグ」というのでしょうか? 時代劇の場合も?)

他の辞書で「ウイッグ」を見てみると、

 

  新明解 洋髪のかつらや付け毛。

    つけげ 美しく見せるために、頭髪に付け加える別の毛(を付けること)。

 

まず、「洋髪」であること。「つけげ」もウイッグですね。

 

  集英社 かつら。特に、女性用の洋髪のかつら。

 

特に女性用であること。男性用は「ウイッグ」と言うかどうか。おしゃれな人なら言う? 

 

  新選 女性がファッションとしてつける洋装用のかつら。
       かつら ①少ない頭髪をおぎなうためにかぶるもの。②頭の形の地に、毛髪を植え、いろいろな髪形につくったかぶりもの。演劇用、女性のおしゃれ用など。

 

新選は「女性がファッションとして」と書いています。私は、この新選の説明がいいと思うのですが、新明解の「付け毛」も言うということを加えたほうがいいと思います。ウイッグは「かぶる」ばかりではないので。それにしても、「かつら」の①の言い方は、(正しいのだけれど)なかなかきびしいですね。

 

ウィット

また三省堂国語辞典の問題点です。

 

  ウイット〔wit〕気のきいた<ことば/しゃれ>。「-に富んだ話」

 

「ことば/しゃれ」なのか、という問題です。

 

   新明解 (略)気のきいた言葉やしゃれがとっさに出せる才知。機知。「-に富んだ話」

 

「(略)」とした部分の話はまたあとでするとして、三国の「ことば/しゃれ」に対して、新明解は「言葉やしゃれがとっさに出せる才知。機知。」だとしています。

他のいくつかの辞書も、「才知。機知。」としています。「ことば/しゃれ」自体ではありません。

英英辞典を見てみると、

      wit the ability to say or write things that are both clever and amusing  (OALD 6th ed.)

で、「 ability 」です。

もちろん、英語ので意味が日本語に入って変わることはよくあることですが、「ウィット」はその例でしょうか。それならば、それを示す用例をいくつか並べて示すべきでしょう。

三国と新明解は、語釈が違いながらも同じ用例をあげています。どちらでも用例の意味は成り立つからでしょう。

私は、単に三国の誤りだと思います。

 

新明解の(略)の部分を見てみます。

 

  気まずさや相手の無神経な言動、攻撃的な態度などを やんわりとかわして、その場の空気を和らげたり 自分に有利な情勢をもたらしたり する、気のきいた言葉や しゃれが とっさに出せる才知。機知。
         [新明解国語辞典第七版]

 

「気のきいた言葉やしゃれ」をより具体的に説明しています。 頑張っているのはよくわかるのですが、限定しぎているんじゃないかなあ、という印象です。

 

追記

読み直してみて、新明解の長い修飾部は「気のきいた言葉やしゃれ」にかかるのではなく、「才知。機知」にかかるとも考えられる、ということに気付きました。どちらでも結局は同じこと、と言っていいでしょうか。 

ウイング

三国の語釈が不十分な例です。スポーツの用語です。

 

  ウイング  ②〔サッカー・ラグビー・ホッケーなどで〕両はしの位置(の選手)。  三国

 

サッカーで「ウイング」というのは、フォワードの選手を言います。守備の選手が「両端の位置」にいても、「ウイング」とは言いません。

新明解は、「前衛の左右両端」と言っています。

 

  新明解 ③〔サッカー・ハンドボールなどで〕前衛の左右両端の位置(に着く人)。

 

サッカーの場合はこれでいいのですが、ラグビーでは「バックス」(つまり、「前衛」ではありません)の両端を言います。

 

     旺文社 ②サッカーのフォワードやラグビーのバックスなどで、左右両はしの位置。また、その位置につく選手。

 

では、サッカーの「フォワード」とラグビーの「バックス」の共通点はと言うと、

 

      学研 ③サッカー・ラグビーハンドボール・バレーボールなどで、左右両端の攻撃位置(につく人)。

 

「攻撃位置」であることですね。ただ、私はラグビーをよく知らないので、ラグビーの「フォワード」「バックス」の役割・作戦がどうなっていて、ラグビーでの「攻撃」とはどういうものかはわかりません。

学研の「攻撃位置」でピッタリなのかどうか、そこは詳しい方にお聞きしたいところです。

 

 

ウーロン茶

新明解がおかしい項目です。

まずは三国の安定した語釈から。

 

  ウーロンちゃ[烏龍茶] 色が紅茶に似ている、あっさりとした味の中国茶。〔「ウーロン(烏龍)」は中国語。茶の葉の仕上がりの形が竜の爪のようだという〕

 

「色が紅茶に似ている」という部分、うるさいことを言えばいろいろあるかもしれませんが、わかりやすくていいでしょう。日本茶(緑茶)とは違うのだということ。

 

  明鏡 茶の葉を半発酵させてつくる中国産の茶。赤褐色で独特の香りがある。

 

明鏡は「赤褐色」と言っています。三国の記述と合わせると、ウーロン茶=紅茶は赤褐色ということになります。旺文社は紅茶の色をそう書いています。

 

      紅茶 茶の木の若葉を摘み取り、発酵・乾燥させてつくった茶。湯を注ぐと汁が紅褐色を帯びるところからいう。  (旺文社) 

 

さて、新明解です。

 

  新明解 〔ウーロンは、「烏龍」の中国音。色が烏のように黒く、葉が竜のように曲がっているところから〕独特な香気がある、茶の一種。中国本土・台湾産。

 

この「色が烏のように黒く」というのは、やはり茶の色の話でしょう。次に「葉が竜の~」とありますから。「赤褐色」ではないようです。

それと、「葉が竜のように曲がっている」というのも変です。三国は「竜の爪」と言っていましたね。岩波もそうです。

 

     岩波 (略)葉が、色は烏に似て黒く、形は竜の爪に似て曲がっているところからの名という。

 

岩波は、「烏に似て黒」いのは葉だと言っています。そして、葉の形は「竜の爪に似て曲がっている」と。

この食い違い、私には新明解の間違いに思えるのですが。

新明解は、変なところで他の辞書と違う傾向があります。

 

ウェーデルン

三省堂国語辞典から。この「ウェーデルン」ということばを知らなかった人は、次の説明でどういう意味かわかるのでしょうか。

 

  ウェーデルン〔ドWedeln〕〔スキーの〕連続小回り回転。

 

小回りに連続回転するとは、ぐるぐる回るだけ? フィギュアスケートのスピンのように? まさか。

他の辞書を見ると、もう少しわかってきます。


    新選 スキーで、小きざみに連続して回転しながらすべる技術。
    集英社 (スキーで)小回りの回転を連続的に行いながら滑降すること。また、その技術。

 

まず、「回転」というのは「回転しながらすべる」ことであること。当たり前だといってはいけません。フィギュアの「スピン」は「すべりながら」ではありません。スキーでも、モーグルだと空中で回転したりしますし。

さらに、スキーの「回転」の場合は「すべる」のと同時に「滑降する」ことが必要で、新選は(三国よりはいいとしても)不十分です。(cf. 距離競技) 

それにしても、どこでどう「小回りの回転」をするのか、ここでの「回転」とはどうすることか、集英社の説明でもわかりません。

 

  回転 (名・自他サ) [1] ①軸を持つものが、まわること。また、まわすこと。「エンジンの-・-いす」②一つの点を中心にして、(まわりを)まわること。「腕を-させる・頭の-〔=はたらき〕がはやい」③〔経〕(略) [2]〔←回転競技〕スキーの、アルペン種目の一つ。旗門の間が短く、最も小刻みなターンの技術を要する。      (三国)


[2]がスキー用語で、「回転」とは「回転競技」のことだというのですが、それでは「連続小回り回転」がどういう「回転」なのかはわかりません。

とりあえず、「アルペン・旗門・ターン」をみてみましょう。

 

  アルペン〔ドAlpen=Alpの複数形〕①アルプス。「-ルート」②←アルペン種目。

   ・-種目〔スキー競技で〕滑降・回転・大回転・スーパー大回転、およびその複合競技。アルペン(スキー)。→:ノルディック種目。   (三国)

 

ここの「回転・大回転」は種目の名前ですから、やはり「連続小回り回転」の「回転」とは違うでしょう。

 

  旗門 スキーのアルペン種目で、コースを示したポール(に旗がついたもの)。(三国)

 

上の「回転(競技)」の説明の中で、「旗門の間が短く」とありますが、「門」なのだから両側に旗があって、その間隔が短い、ということでしょうか。それなら「狭い」のほうがいい?(知らない、わからない、というのは、こういうことです)

 

  ターン ①回転(すること)。②進路を変えること。「U-」③(水泳などで)折り返し。


「回転(競技)」の中の「最も小刻みなターンの技術」の「ターン」はこれらのどれに当たるのでしょう。「回転競技」なのだから①の「回転」
結局、「回転」の意味は、上の語釈の①、②から考えるしかないようです。②だと、「一つの点を中心にして、まわりを回ること」? スキーで? 

「回転競技」をほかの辞書で引いてみましょう。

 

   集英社 スキー競技のアルペン種目の一つ。斜面のコースにジグザグに設けられた規定の数の旗門を通過しながら滑り降り、タイムを競うもの。スラローム

    例解新 スキーのアルペン競技の一つ。斜面に立てられた決まった数の旗を、順に右左交互にまわってすべりおり、その速さをきそう。   

 

集英社の「斜面の~旗門を通過しながら滑り降り、タイムを競う」という説明はていねいです。三国の、非常に省略した、「わかる人にはわかる」説明よりはるかにわかりやすく説明しています。

また、例解新の「旗を、順に右左交互にまわってすべりおり」というところで、「旗門」を通るために(まっすぐ滑るのでなく)回り込む、ことを「回転」というらしい、ということが(なんとなく、ですが)わかります。この「右左交互に」とは、「ターン」の「②進路を変えること」です。

しかし、こうは言ってみても、そうわかるのは既にテレビなどで競技を見て知っているからでしょう。あるスポーツを、全然知らない人に説明するのは非常に難しいことです。


初めに戻って、「ウェーデルン」の「回転」とは、「回転競技」で旗門を回るためにターンするのと同じような動作のことで、「ウェーデルン」は、そのターンをくり返し、小刻みに行うこと、ぐらいに理解すればいいのでしょうか。(正確なことは、私にはわかりません)

三国の「連続小回り回転」という語釈を見て、そもそも「滑り降りる」のは当然であること、そしてそこでの「回転」の意味もわかる人は、既にすべて知っている人でしょう。つまり、三国の語釈は、「その語の意味がわからないから辞書を引いた」人への説明としてはほとんど役に立っていない、と言わざるを得ません。

 前にも書いたことですが、三国の語釈は、その意味を元々知っている人にとっては「要するにどういうことか」がうまくまとめられているのかもしれませんが、その語釈を頼りに、その語の意味を知ろうという人にはまるで役に立たないことが時々(しばしば?)あります。改善してほしい点の一つです。