OG・OB
久しぶりに外来語の原語問題です。
オージー[OG]〔←old girl〕<卒業/退職>した、女性の先輩。(⇔OB) 三国
オージー[OG]→オービー(1)
オービー[OB]1(在校生に対して)卒業生。先輩。▽old boyの略。女にはgirlを使って「OG」と言う。 岩波
オージー[OG]1〔←office girl〕女子事務員。 2〔和製英語 ←old+girl〕〔OBからの類推〕その学校の女子の先輩(卒業生)。 新明解
オージー[OG]1女性の卒業生。▽和製old+girlの略。→OB 2女性の事務員。女子社員。▽office girlの略。 明鏡
オージー[OG]1(洋語old girlの頭文字から)女性の卒業生。 2(洋語office girlの頭文字から)会社などの女性事務員。3(英own goalの略)→オウンゴール 現代例解
さて、三国は「OG:先輩」を英語としています。岩波も英語としているのでしょうか。
それに対して、新明解・明鏡は和製、現代例解は「洋語」つまり和製としています。他の多くの辞書も和製派です。
「OG:女性事務員」のほうは、新明解・明鏡は英語としていますが、現代例解はやはり「洋語」としています。
次に「オービー」を見ます。
オービー[OB]1〔←old boy〕1同じ学校の卒業生(のチーム)。 2<卒業/退職>した(男子)先輩。(⇔OG) 三国
オービー[OB]1〔←old boy〕1卒業または退職した男性の先輩。[対]OG 2卒業生のチーム。「-対現役の試合」 三省堂現代
オービー[OB]〔←old boy〕→オールドボーイ
オールドボーイ〔old boy=校友〕1卒業生のチーム。オービー。 2老選手。 新明解
オービー[OB]1(洋語old boyの頭文字から)在校生に対して、その学校の男性の卒業生。先輩。また、ある団体に、もと所属していた人を広くいう。「母校のOB」「球団のOB」 現代例解
オービー[OB]1在校生に対して、その学校の卒業生。先輩。「大学の-」→OG▽old boyの略。old boyには卒業生・同窓生の意があるが、英語圏ではOBは使わない。 2ある団体や会社にもと属していた人。「演劇部-」「農林水産省の-」 明鏡
さてこちらはまた別の問題があります。
三省堂の三冊の辞書は、「オービー」ということば自体に「卒業生のチーム」の意味があると解釈しています。私は今回これをはじめて知りました。
三省堂現代の用例「オービー対現役の試合」では確かにそういう意味にとれますが、では「現役」ということば自体に「現役(学生)のチーム」の意味があるかというと、それは無理でしょう。それはあくまでこの文脈、この使い方で担わされる意味に過ぎません。
現役 1現在、ある社会や組織で活躍していること。また、その人。「-を退く・-まだまだばりばりの-だ」 2在学中に受験すること。また、その人。「-で合格する」[対]浪人 三省堂現代
三国のように「(のチーム)」という書き方ならまだいいのですが、三省堂現代や新明解のように一つの用法として書くのはどうなのだろうと思います。(実際の使用例を多く調べてみなければなりません。)
さらに大きな問題として、新明解の説明では、三国や他の辞書が第一にあげる「卒業生・先輩」を指す用法がありません。これは、そういう用法はない、という強い主張をしているわけではなく、単なる書き落とし、ポカでしょう。新明解という辞書は時々こういうことをやってくれます。
さて、原語の問題ですが、現代例解は「オージー」と同じように、「洋語」つまり和製の用法であると言い、明鏡は「old boyには卒業生・同窓生の意があるが、英語圏ではOBは使わない」と明確に述べています。
つまり、「old boy(old girlも)」自体は英語ですが、「OG・OB」という省略形は英語では使われないということです。
old boy(fem. old girl) 1 a former pupil of a particular school OALD 5th(1995)
英語の辞書には、確かに old boy / girl がのっています。(OALDというのは、英語教育では有名な学習者用英英辞典で、いわゆる「ホーンビー」です。私には懐かしい辞書です。)
しかし、「ウィズダム英和辞典第2版」(2007)には、old boyの項にわざわざ(×OBと略さない)という注意書きがあります。日本人のやりがちな間違いなのでしょう。(OGも同じです。)
ということで、「オージー」の三国・岩波の記述は誤りです。「オービー」では新明解も誤りです。
「オージー」の、もう一つの「office girl」自体も英語にあるのですが、「OG」と略すのは日本の用法のようです。意味も、英語では
《やや古》(会社の)雑用係の少女 ウィズダム英和辞典
であって、「女性事務員」ではありません。
ということで、これも現代例解の記述がいいようです。
以上のことは英和辞典、英英辞典を調べればすぐわかることなのですが、一部の国語辞典の編集者はそういうことをしないのでしょうか。まずは他の国語辞典を見て、違いがあったら調べてみる、あるいは専門家に聞いてみる、というぐらいのことはすべきでしょう。