ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

愛好・愛慕

続けて、愛に関わることばを。

 

  愛好(名・他サ)好きで、したしむこと。「-者・平和を-する」

             三省堂国語辞典

 

「平和が好きで、したしむ」? 「音楽を愛好する」なら、「好きで、したしむ」でいいかもしれませんが、「平和を」だと、どうか。

 

  親しむ ①したしくする。「友と-・ファンに親しまれる」②その中に、とけこんで楽しむ。なじむ。「自然に-」    三国

 

なんか違うような。

「平和を愛好する」というのは、もっと積極的な態度でしょう。何かと好戦的なことばを投げつける、人をあおるような風潮に対して、静かに、しかし決然とした態度で「平和を愛好する」と言い切る、そういう態度だと思います。(ちょっと思い入れが過ぎるでしょうか?)

 

  愛好  好ましいものとして、その物事を積極的に受け入れること「平和を-する/音楽-家・切手-者」    新明解

 

「積極的に」は賛成ですが、「受け入れる」でいいかどうか。

「平和」の場合は「積極的に高く評価し、尊重する」こと、ぐらいでどうでしょうか?

それを「受け入れる」と言うんだ、というのが新明解の編者の考えかもしれませんが、少し違うように思います。

まあ、この辺は、とらえ方の相違、と言ってもいいでしょうか。三国の「好きで、したしむ」よりはずっといいように思います。

三国も、「平和を-」という例でなく、「音楽/自然を-」ぐらいの例だったら、「好きで、したしむ」でよかったのだろうと思います。

「平和を-」という例をあえてあげるのならば、それに合った語釈を考えてほしいと思うのです。

もう一つ。

 

  愛慕(名・他サ) 〔文〕愛ししたうこと。「-の念」   三省堂国語辞典

 

これは「愛慕」の漢字を訓読みしただけです。意味はまさにそのままなんだから、それでいいじゃないかと言われればそうかもしれませんが、どうもねえ。(他の辞書も、ほとんどすべて「愛し慕う」です。)

できれば、「愛し慕う」のあとに、それを別のことばで説明してほしいと思います。例えば、次のように。

 

  特定の相手に対して深く心を寄せ、できることならいつもそば近くにいたいと思うこと。      新明解

 

この語釈でぴったりかどうかはおいて、「愛」も「慕う」も使わずに、という努力を買います。

新明解は、こういうところが好きです。

ただし、新明解は用例がありません。三国の「-の念」だけというのも、まったくないよりはましですが、不十分すぎます。

私が、「愛慕(する)」ということばに関して知りたいことは、どのような人が、どのような対象に対して、このことばを使えるのだろうか、ということです。