「映画」という、誰もが知っていることばをどう説明するか、です。
まずは三省堂国語辞典から。
物の形・色を映したフィルムを回して、スクリーンの上に動きをあらわして見せるもの。シネマ。ムービー。「-を見に行く・-館・-界」 三国
説明としては確かにそうなのかもしれませんが、私たちが「映画を見に行く」「きのう映画を見た」という時、「物の形・色を~見せるもの」を「見た」のでしょうか。
他の辞書も同じようなものです。
撮影したフィルムの画像をスクリーンに連続して映し、姿形や動きを再現するもの。現在はふつう音声も伴う。古くは「活動写真」「シネマ」「キネマ」とも言った。
明鏡
高速度〔=一秒間に二四こま程度〕で連続撮影したフィルムを、映写幕に同速度で連続投影して、被写体の形や動きを再現するもの。無声・モノクロから出発し、現在ではトーキー・天然色が普通。シネマ。「記録- ・ 劇- ・ 文化- ・ -館 ・ 芸術- ・ ポルノ- 」 新明解
「姿形や動きを再現するもの」とか、「被写体の形や動きを再現するもの」が「映画」でしょうか。そうでない、というわけではありませんが。
フィルムに連続的に写しとった映像を、映写機でスクリーンに映し出し、目の残像現象を利用して形や連続した動きを再現するもの。古くは活動写真といった。シネマ。キネマ。ムービー。「映画を撮る」「映画に出る」「音楽映画」 大辞泉
一秒間一六または二四こまの速度で連続的に撮影されたフィルムを、映写機によって投影し、一連の物語や映像などを写し出すもの。一九世紀末に発明されて以来、トーキー・カラー・ワイド・立体などその表現技術はめざましく発展した。活動写真。キネマ。シネマ。ムービー。「 -スター」 大辞林
百科辞典的な内容は詳しくなりますが、「映画とは何か」という部分ではほとんど同じです。ただ、大辞林だけは「一連の物語や映像などを写し出すもの」というところが違っています。「物語」を写すものなのです。
私たちが「映画を見る」という時、ほとんどはいわゆる「劇映画」を見るのでしょう。わざわざそう言わないほど、「映画」とは「劇」(物語)なのです。
英語の辞書を見てみると、まったく違う書き方になっています。
LDCE film(イギリス英語 米ではmovie)
a story that is told using sound and moving pictures, shown at a cinema or on television for entertainment
娯楽として映画館やテレビで見せる、音と動画によって語られる物語。
ロングマン現代英英総合辞典 film
a story, play, etc. recorded on film to be shown in the cinema, on television, etc
映画館やテレビで見せるための、フィルムに撮影された物語、劇など。
何よりもまず、「a story」なんですね。映画とは。
ふつうの国語辞典は、私の見た限りではみな上であげたような説明をしていましたが、ただ一つ、講談社の類語辞典だけが違っていました。
ドラマやニュースなどをフィルムに撮ってスクリーンに映して見せるもの。
講談社類語
そっけないくらいの書き方ですが、これでいいんじゃないでしょうか。
「フィルムに撮ってスクリーンに映して見せる」もの、それを見に行くわけですが、それが何なのかという大切なところが、ほかの国語辞典ではわかりませんでした。大辞林の「一連の物語」以外は。(しかし、この「一連の」という部分はどういう意味合いなのでしょうか。)
もう一つ、他の辞書に書かれていないことを書いた辞書がありました。
学研の国語大辞典には、「芸術の一分野とも考えられている」という一節がありました。映画は芸術なのだということ。
三国の「演劇」を見ると、
演劇 脚本の筋書きを舞台の上に表現する芸術。劇。芝居。
とあり、「芸術」だとしています。
それなら、「映画」の語釈にも「芸術」ということばがあってもいいのではないでしょうか。
百科事典には、次のような説明がありました。
映画とは、写真的方法によってフィルム上に記録した画像を光学的方法でスクリーン上に投影するもので、動きのある映像を見せる装置、またはそれによってつくられる作品をいう。1927年から音響もフィルム上に記録し再生できるようになり、以来映像は音を伴うのが通例となった。 日本大百科全書
「動きのある映像を見せる装置」または「それによって作られる作品」をいう、のですね。
国語辞典は「見せる仕組み」の説明ばかりで、「作品」であるということを忘れているようです。
「映画」とは「物語」の「映像作品」なんだということ、そして、「芸術」の一つだということ、それをうまく語釈としてまとめてほしいと思います。