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ことば・辞書・日本語文法(2)

日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

自動詞・他動詞

辞書によって自動詞か他動詞かの認定が違うという話です。

まず例を。

  よろこぶ  【喜ぶ・《悦ぶ・《慶ぶ】(自五) (なにニ-/なにヲ-)
   よい事に出あって非常に満足し、うれしい(ありがたい)と思う。
   親孝行をして、父の-顔が見たい 人に喜ばれる親切
   人の注意を喜んで聞く 手放しで-のはまだ早い [新明解国語辞典第七版]

  よろこ・ぶ【喜ぶ(▽慶ぶ・▽悦ぶ・▽歓ぶ)】他五 
   ① 好ましい出来事に満足しうれしく思う。~に喜びを感じる。
   「実験の成功を心から━」「無事だと聞いて大いに━」「母の━顔が見たい」
   「涙を流して[躍り上がって]━」

   [語法]「合格の知らせに小躍りして━」など自動詞としても使う。~ヲが単に〈喜びの対象〉を表すのに対し、~ニは、~を知って喜びを感じる意で、喜びの原因に重きをおいた表現となる。

   ② 好ましいこととしてうれしく思う。喜んで受け入れる。歓迎する。
   「彼女は私の提案を少しも━・ばない」  [明鏡国語辞典 第二版]

 

 こわがる【怖がる】(自五)
   怖いと思う(様子をする)。 [新明解国語辞典第七版]

 こわ‐が・る【怖がる(▽恐がる)】他五
   怖いという気持ちを態度に表す。びくびくする。おそろしがる。
  「雷[注射]を━」「━・ってばかりいては何もできない」「ライバル社に━・られる存在」
               [明鏡国語辞典 第二版]

心理的な動詞で、ヲ格をとる場合、新明解は自動詞とし、明鏡は他動詞とする傾向がある、ということのようです。

次の例。

 あせる【焦る】(自五)(なにヲ-)
  〔思うように事が運ばない時〕急がなければいけないと思うあまり、ふだんの落ち着きを失う。
  事(功)を- 焦って自滅した 攻め-    [新明解国語辞典第七版]

 あせ・る【焦る】 自五
   思い通りにならないことに気がせいて、いらいらする。落ち着きや冷静さを失う。急せく。
  「気が━・っては成功はおぼつかない」「追いつめられて━」
  「━・って失敗する」「━・れば━ほど事態は好転しない」
   〔俗〕ひどくあわてる。あわを食う。
  「車にひかれそうになったときは━・ったよ」
  他五
  はやる気持ちで名誉や手柄を手に入れようとする。急ぐ。
  「勝利[成功・事]を━・って大魚を逃す」
               [明鏡国語辞典 第二版]

新明解は自動詞のみ、明鏡は自動詞と他動詞の用法を分けています。

さて、利用者としてはどう考えたらいいのか。

「他動詞」の定義はどうなっているのでしょうか。

 【他動詞】〔文法で〕
  その動作が動作主〔=文法上は一般に主語〕以外のものを対象として行なわれ、それに変形・変質・位置の移動や(心理的な)摂取、知的・物質的な生産、現象の出現など、何らかの影響・変化を及ぼす動詞。例、「岩を砕く」の「砕く」、「白地を赤く染める」の「染める」、「石を投げる」の「投げる」、「パンを食べる」の「食べる」、「友人の死を悲しむ」の「悲しむ」、「ビルを建てる」の「建てる」、「未来社会を思い描く」の「思い描く」、「光を発する」の「発する」など。〔英語などで、構文上目的語=objectを必要とする動詞=transitive verbの訳語〕⇔自動詞  
           [新明解国語辞典第七版]   

ずいぶん詳しい解説です。六版より詳しくなっています。「悲しむ」を他動詞の例としてあげています。それでも、心理を表す動詞など、ヲ格をとる動詞を自動詞とすることについては触れていません。

いちおう、「自動詞」のほうも。

 【自動詞】〔文法で〕
  その動作が動作主体自身の自律的な営みに関するものであって、他に影響を及ぼす対象を持たない動詞。例、「道を歩く」の「歩く」、「雨が降る」の「降る」など。〔英語などで、構文上、目的語=objectを必要としない動詞=intransitive verbの訳語〕⇔他動詞
            [新明解国語辞典第七版]

「道を歩く」のように、移動動詞についてはヲ格があっても自動詞とする、というのは一般に行われていることです。こちらにも心理的な動詞などのヲ格については何も述べていません。

自他の判断が新明解と明鏡で逆になる例もあります。

 はたらきかける  【働(き)掛ける】(他下一)
   こちらから積極的に行動(提案)をしかけて、相手もそれに応じるように仕向ける。
   和平(合併)を- 事故の再発防止を国に-
   働掛け    -を強める       [新明解国語辞典第七版]

 はたらき‐か・ける【働きかける(働き掛ける)】自下一
   自分から他に向けて積極的に動作・作用をしかける。「連携を強化すべく各部署に━」
                   [明鏡国語辞典 第二版]

心理動詞とはまた違う動詞の例。

  【持(ち)寄る】(自五)
  〔事前に集めたり 前もって準備したり するのに支障があって〕各人がそれぞれの所有のものを持って寄り集まる。
  資料を-  意見を-  各人がごちそうを持ち寄ってパーティーを開く
             [新明解国語辞典第七版]

  もち‐よ・る【持ち寄る】他五
  めいめいが持って寄り集まる。 「案を━・って検討する」
              [明鏡国語辞典 第二版]

本当に、どう考えたらいいんでしょうか。

単純に言って、ヲ格をとる例を挙げながら、自動詞だとする新明解の立場は、何らかの説明を要するように思いますが、どうでしょうか。