ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

地名

国語辞典で地名をどう扱うかというのは、難しい問題で、かんたんに答えの出ることではないでしょう。

固有名詞は項目としない、というのは一つの態度ですが、それでうまくいくかどうか。

たとえば、「アメリカ」という地名・国名をどのように説明するか。

三省堂国語辞典は、現在の日本語を理解するには、外国の国名を知っておくことは必要なことだという考えのようで、多くの国名をのせています。

  アメリカ〔America=亜米利加
   ①アメリカ合衆国 ②大西洋と太平洋との間にある、南北に長くのびた大陸。    北アメリカ・南アメリカに分かれる。アメリカ大陸。アメリカ州。米州。米。

基本的な記述で、書くべきことが書いてあると言っていいでしょう。「アメリカ合衆国」も追い込み項目として説明されています。

では、派生的な「アメリカン」はどう書かれているか。

名詞としては「アメリカン コーヒー」の略として使われること、また、造語成分として「アメリカの」という意味を表すことがきちんと書かれています。

ただ、その追い込み項目の中の次のものはちょっといただけません。

  アメリカンドリーム アメリカで勝ち取る、大きな成功。「-を体現する」

この語釈で何のことかわかる人がいるのでしょうか。これも、これまで何度も書いてきたように、結局この語を知っている人だけがわかる語釈・用例でしかありません。

次に、新明解国語辞典ですが、書籍版では付録として「外国名一覧」があり、すべての国が記述されています。しかし、今私が使っている電子版は、この付録がないようです。本文には「アメリカ」が次のように書かれています。

   アメリカ(造語)〔America〕アメリカ大陸の。

「アメリカ」は造語成分としての用法しかありません。これは何とかしてほしいところです。

「アメリカンドリーム」の記述は、三国と違ってわかりやすいものです。

   アメリカンドリーム 〔American dream〕
   民主主義・自由・平等などの米国建国以来の理想。また、その中で、誰でも努力   すれば実現の可能性があるとされる社会的・経済的な成功。

明鏡は、「アメリカ」はなく、「アメリカン」はあります。国名・地名はのせないのかというと、そうでもなく、「ヨーロッパ」は説明されています。「アフリカ」もないので、「ヨーロッパ」は特別、なのでしょうか。

国名では、「中国」が「中国地方の略」「中華人民共和国の略」として項目になっています。

岩波は、固有名詞はいっさいありません。「英国」「米国」もありません。

国名・地名は社会科で習うことで、国語で扱う知識ではないということでしょうか。

でも、理科で扱われる科学的な用語は、国語辞典の守備範囲です。

「アメリカ」のような語は「わかりきっているから」のせなくていいのか。あるいは、別の本で調べればいいこと、なのか。