ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

めった・めったな・めったに

広辞苑の副詞を検討したときに出てきた語です。

辞書によって扱いが大きく違うので、いろいろ見てみます。

 

まず、広辞苑から。(例文の一部を省略します)

 

  めった 1分別のないさま。むやみやたらなさま。「-な口はきけない」
    2(下に打消の語を伴って)容易に。なかなか。       広辞苑
  
まず、「めった」は名詞扱いです。広辞苑は「形容動詞」という品詞をを認めないので、「-な」の形で名詞を修飾する「名詞」とします。
そして、名詞とは別に「めったに」という形の副詞を認めます。

 

  めったに〔副〕1むやみやたらに。むちゃくちゃに。
    2(下に打消の語を伴って)ほとんど。まれにしか。「-見られない代物」
                                広辞苑

 

次に、新明解国語辞典


  めった【滅多】-な〔無分別を意味する中世語「めた」の変化〕どんな結果になる
    かを考えもせずに、やりたいほうだいのことをする様子だ。「-な事を言う
    ものではない/-打ちにする」[表記]「滅多」は、借字。[文法]「めったな+
    体言」の形は、一般にあとに否定表現を伴う。

  めったに(副)〔もと、「普通以上に」の意〕〔否定表現と呼応して〕特別の場合
    でない限りそうはしない様子を表わす。「あの人が休むなんて-無いこと
    だ/-気が許せない/-出掛けない」            新明解

 

新明解も形容動詞という品詞を認めません。

「めった」は名詞ですが、「-な」の形で名詞を修飾するので、それを表示し、「形容動詞としての用法を併せ有する」ものとします。

そして「めったに」は別の副詞。

 

岩波国語辞典。

 

  めった【滅多】〘ダナ・副〙やたら。
    ㋐分別のないこと。めちゃくちゃ。「―切り」「―なことは言えない」。
     節度なく。むやみ。「そんなことを―に言おうものなら」
    ㋑《「―に」「―と」の後に打消しや反語を伴って》そうざらに。「―には
     無い偶然のめぐり合わせ」「―に行くものか」「―と無い事」
    ▽「滅多」は当て字。       岩波

 

岩波によれば「めった」は「ダナ」つまり形容動詞です。名詞ではありません。
そして《「―に」「―と」の後に打消しや反語を伴って》副詞としても働く。

 

三省堂国語辞典

 

  めった(ダナ)1①よく考えないでするようす。むやみ。やたら。「-なことを
     言うものではない」
    ②〔多く、後ろに否定が来る〕よくあるようす。かんたん「-なことでは近
     寄らない」 
        2[造]めちゃくちゃにするようす。「-切り・-突き」(略)
   ・めったに(副)〔後ろに否定が来る〕①機会がほとんどないようす。「-客が
     来ない」(略)   三国

 

まず、「ダナ」つまり形容動詞です。それから「造語成分」。例語は「滅多切り・滅多突き」。

岩波と同じく、名詞の用法を認めません。

そして、「めったに」の形で副詞。

 

明鏡国語辞典は、ちょっと独特です。

 

  めった【滅多】(造)むやみやたらである意を表す。「━打ち・━負け」
   ▽「めた(=むやみやたら)」の転。[表記]「滅多」は当て字。かな書きも多い。

  めった‐な【滅多な】(連体)
    1 思慮のないような。軽率な。むやみな。「━ことを言うな」「━返事は
     できない」
    2 ごくふつうである。当たり前の。「━ことじゃ驚かない」 [書き方]→滅多
    [使い方]下に打ち消しや禁止の表現を伴って使う。もと、打ち消しを伴わない
    言い方もあった。「滅多に」も同様。「滅多な抗議を申し込むと又気色を悪く
    させる危険がある〈漱石〉」

  めった‐に【滅多に】副《下に打ち消しを伴って》まれにしかないさま。ほとんど
    起こらないさま。「病院には━行かない」「こんなチャンスは━ない」
    [書き方]→滅多 [使い方]→滅多な               明鏡

 

まず、「めった」は名詞ではなく、「造語成分」とします。これは三国と同じ。例は「めった打ち・めった負け」。

また、「めったな」という形を「連体詞」と見なします。これが以上の辞書と違うところです。

おそらく、「めっただ」という述語になる形がないから、ということでしょう。

そして、「めったに」は副詞です。

 

以上の品詞表示をまとめると次のようになります。

        めった   めったに    めったな

  広辞苑    名詞    副詞    名詞の一用法
  岩波     形動    副詞     (形動) 
  新明解   名(形動)  副詞    形動の用法を持つ
  三国    形動・造語  副詞     (形動)
  明鏡     造語    副詞      連体詞

 

さらに他の国語辞典を見ると、様々であることがわかります。

  旺文社    形動    副詞     (形動)
  集英社    形動    副詞     (形動)
  学研新    形動    副詞     (形動)
  新選(9)    形動  形動(「めったに」の形で) (形動)
  現代例解   形動  形動(「めったに」の形で) (形動)
  三現新   形動・接頭  副詞     (形動)
  例解新(9)   なし    副詞      連体詞  

「めったに」を「めった(な)」とは別に副詞と認める辞書がほとんどですが、新選と現代例解は形容動詞の連用形「めったに」の一つの用法としています。

広辞苑と新明解は「めった」を名詞としていますが、多くの辞書はそうしません。
名詞とはどういうものか。大辞林の説明が過不足ないものだと思います。

 

  名詞 品詞の一。事物の名を表し、またそれを指し示す自立語。活用がなく、単独
    で主語となりえるもの。また、「の」「な」「を」「に」などの助詞を伴って
    連体修飾語、連用修飾語になり、「だ」などを伴って述語にもなる。(以下略)
                              大辞林
 
「×めったが/めったを/めったの」などの形がないということを考えると、名詞とは言えない、というのが筋の通った判断でしょう。(「×めっただ」という形もないし。そもそも「事物の名」でもない。「めった」という「もの/こと」を考えることができない。)

 

多数派は「めった」を形容動詞としますが、これも「×めった だ/で」という形が無いことを考えると、適切ではありません。

形容動詞については三省堂国語辞典の解説がいいと思います。

 

  形容動詞 品詞の一つ。性質・状態をしめす活用語。①口語の場合。a「静かだ」
    「静かな」のように終止形・連体形が「だ」「な」で終わるもの。〔この辞書
    では「ダナ活用」と言う。学校文法で口語の形容動詞と言えば、この活用を
    指す〕 (以下略。「トタル活用」と文語の場合)   三国

 

形容動詞には「だ」の形の終止形があるということは、あまりに基本的なことなので忘れてしまいそうですが、「めった」の場合、「×めっただ」という形が使われないことに気付けば、形容動詞とは言えないはずです。

明鏡と例解新は「めったな」という形を「連体詞」と見なします。その理由は、「×めっただ」という述語になる形がないから、ということでしょう。

これは、「大きな/小さな」「おかしな」という語が「×大きだ/小さだ」「×おかしだ」という形を持たないため、連体詞とされることが多いのと同じです。

「めったな」は連体詞とすると、では、「めった」という形をどう考えるか、ですが、明鏡は「造語成分」とします。「めった打ち」などの複合語を作ります。

「造語成分」という用法を認めることでは三国も同じですが、三国は形容動詞も認めています。それは、上の(三国自身の)「形容動詞」という項目の内容に反しています。終止形「めっただ」という形があると認めることになるからです。

三省堂現代新は三国に近く、「形動」と「接頭語」であるとしています。「造語成分」と「接頭語(接辞)」との考え方の違いは、私にはよくわかりません。

例解新は「めった」という項目がありません。名詞ではない、という考えでしょう。「めった打ち」「めった刺し」という語は独立した項目としてあります。「めった」は何か、と問われれば「造語成分」だと答えるのでしょう。ただ、それを項目とはしない。


以上見てきた中で、私は明鏡のとらえ方がいいのかなと思うのですが、似たような語をもっと調べてみる必要があるでしょう。

こうやって多くの辞書を見てくると、それぞれの考えがあるように思いますが、あらためて広辞苑は(現代語の文法に関しては)大ざっぱだなあ、と感じます。