ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

新明解第八版:「かぞえ方」続き

しつこく、新明解の「かぞえ方」欄の話を。
まず麺類の場合から。

 

   そば(①草②食品)①②とも一本。②は食べる単位としては一杯。特に ざるそばや もりそばなどの場合は一枚。取扱いの単位は一束・一把(イチワ):一袋・一箱・一たま  新明解第八版

 

「そば」のかぞえ方はなかなか詳しいです。伝統的な食べ物(食物・食品)であるからでしょうか。「一杯」と「一枚」の違いの指摘はいいですね。「一本」と数えることにどういう意義があるのかとも思いますが。「一たま」はなぜかひらがなです。

 

   うどん ゆでめんは一玉(ヒトタマ)・一袋。乾めんは一束・一把(イチワ):一箱
   そうめん 一本:一束・一把(イチワ)・一箱・一袋  新明解第八版

 

おや、「うどん」だけ「一本」がありません。なぜでしょうか。太いから? まさか。

そして、「食べる単位」の「一杯」はどちらもありません。そう数えないということはありません。
(そう言えば、そうめんは少しずつとって食べますね。「一杯」とは言いにくい?)

 

   ラーメン インスタントラーメンは一袋・一箱。めんは一玉  新明解第八版

 

「ラーメン」も「一本」と数えません。「一杯」もありません。書き方が不統一ですね。

インスタントから始めるのはなぜでしょう。普通のラーメンはどう数えるのか。
「めんは一玉」というのは、インスタントのことでしょうか。そうでないなら、順序が逆です。
つまり、

   ラーメン 一本:一杯:めんは一玉。インスタントラーメンは一袋・一箱。

こう書くのがいいのでは? そうしない理由があるのでしょうか。

「れいめん」「きしめん」「タンメン」「ビーフン」「フォー」などは、項目はあってもかぞえ方欄がありませんでした。マイナーの悲哀。

カップめん」という項目もあって、ほうと思ったのですが、かぞえ方は書いてありませんでした。

「かぞえ方」欄を付ける項目と、そうでない項目はどう決めているのでしょうか。

 

次に、酒類・飲み物の場合。

 

   酒  一盃(イツパイ)・一滴(イツテキ)。小売の単位は一本・一瓶・一樽(ヒトタル)

   ウイスキー  小売の単位は一本・一瓶:一樽(ヒトタル)

   焼酎   小売の単位は一本・一瓶

   ビール  一本・一瓶・一缶

   ジン   一本・一瓶(ヒトビン)

   ラム   一本

 

「一盃」は「一杯」と同じだと思うのですが、「一杯」としない理由は何でしょうか。麺類と区別するためでもないでしょう。

「一滴」は「酒」だけのようです。

「ビール」などは「小売りの単位」を書き忘れたのでしょうか。「ラム」に「一瓶」がないのはなぜか。

 

   ワイン  一本・一樽(ヒトタル)

   葡萄酒  一杯:一本・一瓶:一樽(ヒトタル)

   シャンパン  一本

 

「ワイン」と「ぶどう酒」でかぞえ方が違うのはどうなんでしょうか。

「一杯」はここにありました。他の酒にも言えるはずですが。

「日本酒」「ウオッカ」には、「かぞえ方」欄はありませんでした。

「日本酒」に関しては独特のかぞえ方があります。「一升」「一合」などです。元は容積の単位ですが、それが瓶などの標準的な大きさにもなり、酒の飲み方の話の中で使われてきました。(「一日に三合まで」とか)

それを書かずして、「一本」とか「一瓶」とか言ってみても、なんだかなあ、と思います。(「焼酎」などもそうでしょう。)

その他の飲み物類のかぞえ方。

 

   茶  袋入りのものは一本。缶入りのものは一缶

   煎茶  一杯:一本・一缶


「茶」のところを見て笑ってしまいました。まったくその通りなのですが、それをわざわざ書く必要があるのだろうかと。必要があるというなら、なぜ「煎茶」にはないのか。また、「煎茶」にある「一杯」は「茶」には要らないのか。

「緑茶」「抹茶」はかぞえ方欄なし。

 

   コーヒー  喫茶の単位は一杯。小売の単位は一袋・一缶・一瓶(ヒトビン)・一箱
   紅茶    喫茶の単位は一杯。小売の単位は一袋・一缶・一箱
   ウーロン茶 小売の単位は一袋・一缶・一本

 

「喫茶の単位」という言い方が出てきました。なぜ「コーヒー」と「紅茶」だけなのか。

ここの「一缶」は、コーヒー豆や紅茶の葉が入った「缶」でしょうか、それとも「缶コーヒー」のような自動販売機から出てくる「缶」でしょうか。その前にある「一袋」から考えると前者のように思えますが、「ウーロン茶」の「一本」はどういうものなのでしょうか。

「小売の単位」とは言っても、「(コーヒー)豆・ひいた粉」「茶葉」と、缶やボトルに入って飲めるような形になったものとはまた違うでしょう。「紅茶」や「ウーロン茶」にも「一瓶」が要ります。なかなか難しい。

 

   ジュース  一本・一瓶(ヒトビン)・一缶
   牛乳   小売の単位は一缶・一本・一瓶・一パック

 

「牛乳」で「一パック」が出てきました。

パック入りの飲み物は多く、「コーヒー」「紅茶」「ウーロン茶」「ジュース」、みな「一パック」が必要です。

「コーラ」「ココア」「豆乳」「スープ」「みそ汁」などはかぞえ方欄がありませんでした。なぜでしょう。数え方がないわけではないでしょう。

 

最後に「水」。

 

   水  一滴・一杯

 

「一滴」が出てきました。これまでのところ、「酒」と「水」だけですね。

また、「一杯」と数えるものの共通性を考えてみましたが、わかりませんでした。

「水」も店で売られているのですが、「小売の単位」は書かなくていいのでしょうか。

 

以上、飲み物類について、その「かぞえ方」欄を見てきました。

飲み物はそれ自体には決まった形がありません。いろんな入れ物に入れて売られるわけです。
その「小売」の形状について考えてみても、あまり益はないように思います。

「茶」の項にあったように、「袋入りのものは一本。缶入りのものは一缶」なのですから、そのもの自体のかぞえ方というより、どのようなものに入れて売られるか、という問題にすぎません。

飲み物以外のものについても、「小売の単位」は、よほど特徴のあるものだけに限ったほうがいいでしょう。「米」の「一俵」、「刺身」の「一さく」のような。


さて、数回にわたって新明解の「かぞえ方」欄をあれこれ見てきましたが、どう考えてみても、一貫した「つけ方」の方針はないように思えます。何らかの方針があって、この現状があるなら、相当いい加減にやってきた、ということでしょうか。

また、「改訂」の際にきちんと見直し、考え直してきたとも思えません。

「編集方針」(p.8)に、

 

   実際の使用例から採集した物のかぞえ方を、[かぞえ方]欄に示した。

 

とあるのですが、そうだとしたら、「採集」が非常に不徹底だった、と考えるしかありません。
 
日本語の「かぞえ方」つまり「助数詞」の意味用法が興味深いものであることは言うまでもありませんが、国語辞典としてそれをどう示すのがよいか、基本的なところからもう一度考え直し、全体にきっちり見直したほうがよいだろうと思います。

現状は、ひどすぎます。