前回、「麺」の「かぞえ方」の話の中で、「カップ麺」が出てきましたが、その時「カップ」の語釈を見て、あれ?と思いました。
カップ 取っ手の有る茶わん。「コーヒー-」 新明解第八版
(この外に「計量カップ」「賞杯(優勝カップ)」などの用法もあるのですが、それは省略します。)
そして、「カップ麺」の項目。
カップ麺 インスタント食品の一つ。カップ〔=容器〕にフリーズ ドライの麺類・具とスープの素(モト)とが入っているもの。熱湯を注いでしばらく置くだけで食べられる。 新明解第八版
この「カップ〔=容器〕」はどう考えても「取っ手の有る茶わん」ではありません。
さて、どう考えたらいいのか。このくらいの「ズレ」はいいとするか。
いや、やはりカップ麺の容器なども「カップ」なのだから、そのような語釈を「カップ」の項に入れるべきだと考えるか。
他の辞書を見てみます。
取っ手のある洋風の茶碗。また、コップやコップ形の器。「コーヒーカップ」 現代例解
1取っ手のついたちゃわん。「コーヒー-」(略)3コップ形の入れ物。「-ラーメン」 三省堂現代
1(取っ手のついた)洋風の茶碗「コーヒー━・マグ━」2 コップ。また、そのような形をした容器。「アイスクリームの━」「━麺」 明鏡三版
「取っ手」のある「コーヒーカップ」型と、「コップ形」を分けている辞書がけっこうあります。このほうがいいと思います。
ここで「コップ形」というのは、「上の開いた円筒形」ということでしょうか。
明鏡では「アイスクリームのカップ」が出てきました。「カップケーキ」などというのもありますね。これらはずいぶん背の低い「カップ」で、「コップ」とはかなり違う。
私は「コップ」と「カップ」は別のものだろうと思うのですが、明鏡や現代例解は「コップ」を「カップ」と呼ぶ場合があるとしているようです。
二つに分けてはいても、ちょっとわかりにくい例。
1コップ。2洋風の、取っ手のついた茶わん。
-麺 カップ形の容器につめたインスタント麺。 学研現代
この学研現代の書き方だと、「カップ形」が1を指すのか、2を指すのかはっきりしません。
新明解と同じように「コーヒーカップ」型しか挙げていない辞書。
持つ手のある茶碗。「コーヒー-」。特に、計量カップ。「小麦粉-二杯」 岩波八版
取っ手のついた洋風の茶碗。「コーヒー-」 旺文社
カップ麺 容器(カップ)詰めの即席麺。◇一九七一(昭和四十六)年、日清食品の創業者安藤百福が開発。 旺文社
取っ手のある洋風の茶碗。 集英社
-ヌードル めんの入ったカップに熱湯を注ぐだけででき上がるインスタントラーメンの商標名。▽和製英語。cup noodle 集英社
旺文社はこういう物の歴史的知識を与えてくれて楽しいです。
集英社は商標名のほうの解説を。
どちらも「カップ」の形状はあまり気にしていないようです。
三省堂国語辞典。語釈はいいのですが、用例に問題があります。
三国の用例は、辞典の利用者がその意味用法を知っていることが前提になっています。
1取っ手のある茶碗。「コーヒー-」2コップ。コップ形の入れ物。「-酒」 三国
「カップ酒」という用例が出されていますが、それは単に「コップ形の入れ物」に入れられた酒、ではありません。
べつに、「コップ酒」という語があり、項目としてたてられています。
コップ酒 日本酒をコップで飲むこと。また、コップで飲ませる安い酒。 三国
「カップ」の用例「カップ酒」は、「カップ」に入れて売られている商品の呼び方ですが、「コップ酒」は、お酒を「お銚子」に入れて「おちょこ」や「ぐいのみ」でちびちび飲むのではなく、「コップ」で手軽に(そしてたくさん?)飲む飲み方です。
この二つのことばの微妙な違いは、上の「カップ」の語釈(と用例)からはわかりません。
まあ、しかたないでしょうか。