ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

「形容動詞」:新明解・岩波・明鏡の比較(2)

前回の続きです。前々回の比較表の続きをコピーし、感想を付け加えます。

 

           新明解    岩波    明鏡     三国

  開けっ放し   ーなーの         名・形動   名・形動ダ
  開けっ広げ   ーなーに         名・形動   名・形動ダ
  あこぎ     ーな     ダナノ    名・形動   形動ダ
  朝寝坊            名ノナ       
  朝飯前                  名・形動   名・形動ダ

 

〇「開けっ放し」

新明解の「-な-の」という表示にはびっくりしました。こんな形は「編集方針」にはありません。

おそらく誤植だろうと思うのですが、七版のデジタル版で検索してみると、

  生憎  開けっ放し  当てずっぽう  違式  命知らず  尊貴  佞奸

の7語がありました。

八版で確かめてみると、「命知らず」は「-な」だけになっていました。他の6語は「-な-の」のままです。

まさか、連体修飾で「-な」と「-の」の両方の形がある、という意味ではないでしょう。(そうだとすると、岩波の「名ノナ」と同じことになりますが。)それだと、7語とかいう数ではなく、非常に多くなります。

さて、どういうことでしょうか。やはり、誤植でしょうか。

岩波が名詞扱い、他は形動扱いです。

 

〇「開けっ広げ」

これも岩波だけが名詞としています。「開けっ広げな 性格・態度・人」はごく普通ではないでしょうか。岩波には「-の性格」という用例があげられています。

「あけっぴろげに 話す・語る・言う・書く」も普通に使われます。岩波はどうして「ダナノ」としなかったのか。

 

〇「あこぎ」

新明解が「-に」を認めていません。「あこぎに」という形はどの程度使われているでしょうか。

「書きことばコーパス」には、「に 稼ぐ・貸す・追求する」のそれぞれ1例しかありませんでした。
yahooの検索で探すと、次のような例が見つかりました。

  貧乏人をさらにあこぎに追い立てるワル
  客の家に盗みに入らせ、あこぎに稼いでいた。
  それだけあこぎに稼いで左うちわの割には
  その金をしたたかにあこぎに搾る娼婦たち。
  あこぎに全巻購入とかなしに、どの作品でも1冊で応募できちゃう
  以来、あこぎに金を儲けはじめ、次第に
  リーマンショックの後も、あこぎに稼ぎ続ける株屋たちと
  商人とその元締めはあこぎに儲けよってからに
  グループ総帥がいかにあこぎに土地を買いあさったかと言う事を知りたければ

まあまあ使われているようですね。「-に」の形を認めてもいいんじゃないでしょうか。

岩波は「ダナノ」で、「-の」の連体修飾を認めているのですが、これは逆に無理があるんじゃないでしょうか。「あこぎの」の後に何が続くのでしょうか。

検索すると、「あこぎの 用法・意味・英訳・由来」などの例が出てきますが、これらをもって「あこぎ」は名詞だ、ということはできません。これらの例は、その語「あこぎ」についての、いわば「メタ言語」的な扱いを表しているので、その語の自然な使い方なのではありません。(ほかにもっといい言い方があると思うのですが、思いつきません。)

かんたんに言うと、動詞や形容詞でもこれらの形が成り立ってしまうのです。

  いさぎよい の用法・意味・英訳・由来

  よみがえる の用法・意味・英訳・由来

普通は「いさぎよい」「よみがえる」とカッコをつけて書くでしょう。「あこぎ」でも、

  「あこぎ」の 用法・意味・英訳・由来

ですから、これらの例を根拠として、格助詞「の」がつけられるから名詞だ、とは言えないのです。

 

〇「朝寝坊」

岩波だけが「-な」の形を認めています。他は名詞扱い。これは珍しいケースです。岩波が話しことば的な用法を認めているわけです。

「書きことばコーパス」には「朝寝坊な」の形はありませんが、yahoo検索で探すと、たくさん出てきます。ホテルの宣伝に「朝寝坊なお客様に~」という言い方が使われています。「朝寝坊のお客様」との微妙な違いはどう言えばいいか、なかなか難しそうです。

三国がこれを形動と認めないのはなぜでしょうか。

 

〇「朝飯前」

新明解と岩波は名詞とします。明鏡の「形動」扱いは、何度も書いているように、信用できません。「-な」の形がなくても、「形動」としてしまうのですから。三国が「形動ダ」とするのは「-な」があるという判断でしょう。これもyahoo検索でそれなりに使われていることがわかります。

ただし、「話しことば」という限定が必要でしょう。

 

もう少し書きたかったのですが、次の語が面倒な話になりそうなので、ここでやめて続きはまた次回に。