ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

ABCD

前回、「E」を書いたので、そのつながりでアルファベットについて見てみます。三省堂国語辞典から。

 

  エー[A ] (名) ①アルファベットの第一文字。②名前を出さないで言うときに使う符号。「少女-」 ③〔←answer〕答え。(⇔Q) ④→エース① △エイ ・AからZ(まで)[句] (略)

 

②が面白いですね。例の「少女A」もいい。

この「A」を含む言い方、つまり「A~」という項目を見ていくと、また面白いです。

「A4・A5・A6」という項目があります。JIS 規格の紙の大きさです。なぜか「A3」はありません。「A6」があって「A3」がないというのは、ふだんコピー機を使っている人間には不思議です。「A6」って紙、見たことありません。

おそらく、「A6」は出版関係で使われるからでしょう。文庫本の大きさです。編集者にとっては、なじみのある紙の大きさなのでしょう。

紙の大きさはともかくとして、その他に「A級・Aクラス・A面」という項目があります。それぞれ、必要な項目だと思います。

そこで、これらに共通する、「(一番)よいもの」という意味を表す、ということを「A」の項目に書いておいたほうがいいのではないでしょうか。

 

次は「B」です。

 

  ビー[B] ①アルファベットの第二文字。②名を出さないで(Aに続けて)言うときに使う符号。「A高校の-先生」③〔←basement〕〔建物の表示で〕地階。「-2〔=地下二階〕 ④〔←black〕えんぴつの芯のやわらかいことをあらわす記号。(⇔エイチ) ⑤バスト〔=胸まわり〕の略字。

 

①と②は「A」と共通です。③以下は、それぞれの英語の違いでしょう。こちらも、「B4・B5・B6」があり、「B級・Bクラス・B面」があります。その他に「B反」という項目もあります。(「反物」です)

「B級」には、

  ②マニアに人気のあるもの。「-映画・-グルメ〔=大衆料理〕」

という用法もあります。「A」には、これに対応する用法はありません。この②の語釈には異論もありますが、それはともかくとして、次のCへ行ってみましょう。

 

     シー[C] ①〔←Celsius〕セ氏温度計の温度の記号「一六〇度-〔160゜Cとも書く〕の油」 ②名を出さないで(A・Bに続けて)言うときに使う符号。「少年-」。③等級の3番め。「-クラスに落ちる」

 

あれ? ①を「アルファベットの第三文字」としない理由は何でしょうか。

そのかわり、「等級の3番め」という「A・B」には書かれていなかった(しかし重要な)用法が示されています。記述が不統一です。

ここでは「Cクラス」が「C」の用例として使われていて、項目としてはありません。

「B」では、

  Bクラス → B級①。

  B級 ①〔Aクラスの下の〕第二級。Bクラス。②(略:上述)

のようにして立てられていた項目に対応する「C級」もありません。

逆に、そのおかげで、「A・B」にはなかった「等級の3番め」という重要な用法が「C」の記述に加えられたことになります。

まったく、不統一です。

さて、「D」はどうでしょうか。

なんと、「D(ディー/デー)」は項目自体ありません。(このことは、「E」のところでも書きました) 

「T」はありますが、その隣にあるはずの「D」がありません。「D」は、日本語では重要な用法がないというのでしょうか。

 

  新潮現代 ディー[D・d] ①英語のアルファベットの第四字。②[D](1)ローマ数字で五百。(2)〔音〕音名ニの英名。独名デー。イタリア名レ。③[d](フdeciの略)デシの記号。


 新潮現代国語辞典は、さすがにひと味違った辞書です。ただ、成績などで4番目であることもほしいところです。昔の「優・良・可・不可」に対応するのが、現在は「A・B・C・D(E・F)」なのですから。

また、「一年一組・四組」のように「一年A組・D組」という名付け方があることも書いておいたほうがいいでしょう。


    学研現代新 エー A ①連続したものの一番目のもの。また、最初。「一年-組」「-からZまで(=最初から最後まで。また、すべて) ②最もすぐれたもの。「成績が-」③音名のイ音。「-マイナー(=イ短調)」④「ビタミンA」「A判」「A型」などの略。

 

学研は①として「一年A組」という、ごくふつうの「A」の使い方をのせています。
  この学研は、①②はいいのですが、三国の②③④の用法がありません。三国には学研の①②③がありません。お互い、もう少しまねしあってもいいと思うのですが。

 

他の国語辞典もちょっとのぞいてみましょう。

明鏡国語辞典

 「A」なし。「Aクラス・A判・Aライン」という項目があります。

 「B」は鉛筆の濃度だけ。「B級」があります。

  B級 〔俗〕第二位の等級。「━グルメ」「━映画」▽一級ではないが、それなりの味わいがあるとしていう。

 「C」なし。「Cクラス・C級」もありません。なぜか「ジー」は詳しく、6つの用法があげられ、その中には「音楽で、音名の一つ。ト音。」というのがあるのですが、それに対応する「C」の音楽用語としての記述はありません。
 

新明解国語辞典

 「A」なし。「Aクラス・A判」が項目としてあります。

 「B」は「地階」と鉛筆の芯の柔らかさ。「B級」の説明がいいです。

 B級 ①〔最上位をA級とする事柄について〕順位や位置づけが上から二番目であること。[語例]-ライセンス ・ -戦犯 ②高級とは言えないものの、親しみやすいために大衆に支持されていること。[語例]-グルメ ・ -アクション映画

しかし、「最上位をA級とする」と言いながら、「A級」という項目はありません。これは、明らかに見落としでしょう。

 「C」なし。「Cクラス・C級」もありません。 

 「D」なし。

 

岩波国語辞典

 「A」なし。「Aクラス・A5・A4」が項目としてあります。

 「B」なし。「B級・B5・B6」があります。「A」との違いが面白いです。

 「C」なし。「D」なし。

 

以上3冊の国語辞典は、三国よりよくないと言っていいでしょう。ただ、明鏡・新明解の「B級」の語釈は、三国よりいいと思います。三国の「マニアに人気のあるもの」というのは、見当違いです。

他の国語辞典は、まだ調べていません。よいものがあったら、またとりあげましょう。(大辞林レベルは別として、ですが)