ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

アイアイ

「アイアイ」というのは、サルの種類です。

 

  アイアイ(名)〔aye-aye〕〔動〕マダガスカル島特産の原始的なサル。夜行性。ゆびざる(指猿)。  (三省堂国語辞典

 

さっと読むとこれで問題なさそうですが、ふと、「原始的なサル」とはどういう意味かと思いました。サルに原始的とか文明的(?)とかあるのかいな、と。

 

  原始的(形動ダ)自然のままで、進歩していないようす。「-な考え」

 

いやいや、待ってくださいよ。「自然のままで」ないサルなんているんでしょうか。

ふつうに「原始的」という場合の反対概念は「文明的」でしょう。人間社会が原始時代から現代まで進歩・発展してきたことを表現するための言い方です。でも、それをサルについて言うのは無理です。

「原始的なサル」というのは、おそらく(不勉強なままの全くの推測ですが)進化論での言い方なのでしょうか。そこから、いろいろなサルが分化していった、というような。 

そういう意味でアイアイの語釈の「原始的なサル」を理解しなければならないとするなら、けっこう難しい説明と言えます。この語釈で、多くの人がわかるのかどうか。「進化の過程から見て」とか何とかつけるのはかえって不正確になるのでしょうか。

なお、大辞林の「アイアイ」にも「原始的な霊長類の一種」という説明があります。こちらは専門家が書いているのでしょうから、この「原始的」はこれが正しい使い方なのでしょう。

 

  原始的[形動] おおもとに近いさま。まだ初期の段階で、十分に進化・発達をしていないさま。また、素朴で単純なさま。「―な形態」「―な方法」  (デジタル大辞泉

 

「十分に進化・発達をしていない」とあります。なるほど。私たちがふつうに「原始時代」という時の意味合いは、後半の「素朴で単純な」のほうでしょうか。

そのつもりで他の辞書を見てみると、

    

【原始的】-な-に
  1自然のままで進歩していない様子だ。2まだ発達初期に属する様子だ。
         [新明解国語辞典第七版]

 

なるほど、ちゃんと区別して書いてありますね。

 

  【原始的】形動 まだ自然のままに近く、ほとんど進化・進歩していないさま。「━な食料採集生活[生物]」   

        [明鏡国語辞典 第二版]

 

こちらは、「自然のままに近く」が「原始的な生物」とは合わず、かえってわかりにくく感じます。

初めのほうで引用した三省堂国語辞典の「原始的」は、「進化」のことを考えていないと思われますので、改訂が必要です。