前回、「さも」に関してあちこち見ているうちにおかしな語釈に気付きました。
三省堂国語辞典から。
どうにも 1どういうふうにしても。「-(こうにも)ことわれない」
2どんなにがまんしても。「-やりきれない」
・どうにもしようがない[句]それ以外には、やりようがない。
・どうにもならない[句]その状態になるための方法が、まったくない。
この1と2の用法の語釈もよくわからないのですが、子見出しの[句]の「どうにもならない」の説明がまったくわかりません。
用例がないので、実例をいつもの「NINJAL-LWP for TWC」からいくつか。
・体型はどうにもなりませんが・・・頑張ります。
・死んでからでは後悔してもどうにもなりません。
・聞いたところでどうにもならないと思ってます。
・しかし、それらを憂いてもどうにもなりません。
・でもね,こんなことしてもどうにもなりません。
三国の「その状態になるための」という「その状態」とは何でしょうか。用例もなしにこんなことを言われても、何もわかりません。
編集者は、本当にこれで「どうにもならない」の意味・用法がわかると考えているのでしょうか。
どうにも 1《否定的表現を伴って》どのような手段をとっても。どのように
しても。「これ以上━なりません」
2 困惑の意を表す。何とも。「-困った」 明鏡
「どうにもならない」という子見出しはありませんが、例文がちょうどそれですね。
しかし、この語釈では、この例文の意味はわかりません。
これ以上 どのような手段をとっても/どのようにしても なりません。
何が? どうなる??
岩波国語辞典。
どうにも 〘連語〙①(他人は何と見ようと、そういう事は)どうであれ。
「―ここは居心地が悪い」「―寂しい限りだ」「―珍妙な格好だ」
②《後に打消しを伴って》ほかのどんな状態にも。「いくら頑張っても
―ならない」。どうしようにも。どうしても。「―打開策が無い」
「―うまくできない」 岩波
②の例文に「いくら頑張ってもどうにもならない」とありますが、語釈のことばで置き換えると、「いくら頑張ってもほかのどんな状態にもならない」?
つまり、どういうことなんでしょうか。
定評ある(?)国語辞典の水準というのは、こんなものなのでしょうか。
『日本語文型辞典』(くろしお出版)という、日本語教師にはよく知られた辞典があります。そこから。
どうにもならない/できない
(1) 過ぎたことは、いまさらくやんでも、どうにもならない。
(2) ここまで病状が悪化してしまっては、もうどうにもできない。
どのようなことを行っても状況を変えることができないという意味を表す。
悪い状況を好転させられないような場合に用いる。
日本語文型辞典 p.313
「状況を変えることができない」「悪い状況を好転させられない」ということなんですね。そこをはっきり書かないと。もっと簡単に言えば、「どうにもならない」とは「(もう)だめだ」ということです。それが、上のような語釈ではまったくわかりません。
新明解は用法を一つとしています。
どうにも 〔否定表現、また、否定的な内容を表わす語句と呼応して〕どんなに
手段・方法を尽くしても不可能だと実感する様子。〔強調表現は「どうにも
こうにも」〕「人間の力では-ならない」「-慰めようが無い」「-がまん
ならない」「-やりきれない気持だ」「-困った問題だ」 新明解
これだけでは岩波の①の用法の例が説明できません。「どうにも珍妙な格好だ」とか。
また、語釈で「~不可能だ」まで書いてしまっていますが、それは「どうにも ならない/できない/困った」などの述語まで含めた説明になるのでは?
初めの三国の「どうにも」の記述に戻ると、
どうにも 1どういうふうにしても。「-(こうにも)ことわれない」
2どんなにがまんしても。「-やりきれない」 三国
この2つの語釈では、岩波の「どうにも珍妙な格好だ」に当てはまりません。
他にも、「どうにも 不思議だ・奇妙だ・気がかりだ・変だ・不明だ」などの例は、この2つの用法のどちらに入るのか、ちょっとわかりかねます。
三国の「どうにも」の項はどうにもなりません。