新明解第八版の「かぞえ方」欄について。
新明解は「言語」の数え方についてどう書いているでしょうか。
「英独仏三か国語」などという言い方がありますが、これは言語学的には正しくないと思います。
例えば中国のウイグル族の大学生が英語と中国語とウイグル語ができるとして、それを「三か国語」と言うか。言語は国家の名称を元に数えてはいけないでしょう。
もっと極端な例を出すと、将来、人工知能が発達して、世界にある言語のうち500を理解できるようになったとして、「五百か国語」と言うか。(世界には六千以上の言語があると言われます。)
さて、新明解は言語をどう数えているのでしょうか。
言語 「言葉」の意の漢語的表現。(例など略)([かぞえ方]欄なし) 新明解第八版
言葉 1その社会を構成する(同じ民族に属する)人びとが思想・意志・感情などを伝え合ったり 諸事物・諸事象を識別したり するための記号として伝統的な慣習に従って用いる音声。また、その音声による表現行為。〔広義では、それを表わす文字や、文字による表現及び人工言語・手話に用いる手振りをも含む〕(例文、23略) [かぞえ方]1は一言(ヒトコト)
新明解第八版
これはひどいんじゃないでしょうか。「言語」は「ことば」だというのはいいとして、ではそれをどう数えるのか。
1の語釈は「言語」の説明としていいと思いますが、それを「ひとこと」と数えるのか。
「ひとこと」は、語釈の最後の「その音声による表現行為」の小さなひとまとまりの数え方でしょう。
上で例に出した「英語・独語・仏語」あるいは「英語・中国語・ウイグル語」は「ミコト」と数えるのでしょうか。
「第八版 序」という文章の中に、
「一本、二枚、三冊」などの「かぞえ方」欄も第四版以来のものであるが、これも再点検をして拡充した。 新明解第八版
とあるのですが、この「言葉」の項は「再点検」されなかったようです。(もし、「再点検」して、これでよし、と思ったのだとしたら…)
「再点検」で、書き加えのあった項目もあります。
「くに」の「かぞえ方」欄は第七版から変化がありました。
国 1「国家」の和語的表現。(略)2昔、幾つかの郡を総括した行政区画。(以下略) [かぞえ方]12は一国(イッコク) 新明解第七版
国 1「国家」の和語的表現。(略)2昔、幾つかの郡を総括した行政区画。(以下略) [かぞえ方]12は一国(イッコク)・三か国(コク) 新明解第八版
第七版。「イッコク・ニコク・サンゴク」と数えるのは、まあ、いいのでしょうが、「米中露三国(サンゴク)」と言うのか、それとも「米中露三か国(サンカコク)」と言うのでしょうか。
4以上になったら? 「G7」は「ナナコク/シチコク」の会合?
(「二国間交渉」は「ニコクカン」ですね。「二か国間」ではないでしょう。どういう場合に「-コク」を使うのでしょうか。)
第八版で「-か国」が加えられたのはよかったのですが、さて、この「12は一国(イッコク)・三か国(コク)」はどう解釈したらいいのでしょうか。例の出し方が、なぜ「一」と「三」なのでしょうか。
一と二は「イッコク・ニコク」だけれども、三からは「サンカコク」になるのだ、という意味なのでしょうか。(「一人・二人・三人」は「ヒトリ・フタリ・サンニン」で、三からは「-リ」が使えなくなる、という例のように)
あるいは、1の用法では「一国」で、2は「三か国」のように数えるのでしょうか。(これはなさそうですね。)
それとも、どちらも「-国/-か国」が使えると考えるのか。そうすると、「G7」は「シチコク」でしょうか? 「シチコクの外相」とはあまり言わないように思いますが。
どうも、この例の示し方はあまりよくないように思います。元々知っている人にはわかるのでしょうが、知らない人には、この示し方でわかるとは思えません。
ということで、「かぞえ方」欄にはまだまだ問題がありそうです。