久しぶりにまた書きます。今回は「道具」です。
道具とは何か。三省堂国語辞典によると、
道具 1仕事に使う器具。「大工-・(お)-箱」2一般の器具。「家財-・炊事-」 三国第七版
「器具」だそうです。では、「器具」とは。
器具 生活に必要な、簡単な器械。「電気-・医療-」 三国
ん? ちょっと違うような気もしますが、とりあえず「器械」を見てみます。
器械 小型で簡単な機械。「医療-」 三国
おやおや、「機械」になってしまいました。
機械 人が手でする仕事を、代わりに動力がするしかけ。 三国
「道具」とは「器具」で、「器具」とは「器械」で、「器械」とは「機械」です。
ということは、「道具」とは「機械」なんでしょうか。どうも違うような。
道具とは、[仕事に使う[生活に必要な、簡単な[小型で簡単な[人が手でする仕事を、代わりに動力がするしかけ]]]]
「茶碗」も「箸」も、食事をするための「道具」と言えるでしょうが、「人が手でする仕事を代わりに動力がするしかけ」ではありません。
どこでおかしくなったのか。
やはり、「器具」を「器械」だとしてしまったあたりでしょう。
「器械」は、「組み立てのあるもの」「内部構造を持つもの」という感じがあります。
「茶碗」や「箸」はそういうものではありません。
新明解を見てみます。
道具 物や仕事をはやく(うまく)仕上げるために使う(こまごました)器具の総称。〔武家では槍、家庭では台所用品を特に指す〕「家財-・-箱〔=大工(修理)道具を入れておく箱〕 新明解第七版
道具 物や仕事をはやく(うまく)仕上げるために使う(こまごました)器具の総称。「-を使う動物がいる/-箱〔=大工(修理)道具を入れておく箱〕・家財-」 新明解第八版
やはり「器具」ですね。
(七版のカッコの中、武家の槍はともかく、「家庭では台所用品を特に指す」というのは根拠があるのかいな、と思っていたら、八版では削られてしまいました。「改訂」がなされたわけで、よかったと思います。)
器具 1何かを動かしたり作ったりするのに使われる道具。「体操-・台所-」2仕組みの比較的簡単な器械。「ガス-・電気-・実験-」 新明解第七版
器具 1何かを動かしたり作ったりするのに必要な道具。「体操-・台所-・調理-」(2は七版と同じ) 新明解第八版
「器具」とは「道具」または「器械」です。2のほうは三国とほぼ同じです。
先ほどから問題にしている「茶碗」や「箸」は1に入るのでしょう。
「道具」とは「器具」であり、「器具」とは「道具」である、というのは単純な堂々巡りですが、要は同じものだ、ということでしょう。
「物や仕事をはやく(うまく)仕上げるために使う」「何かを動かしたり作ったりするのに 使われる/必要な」もの、です。(茶碗や箸の用途は、この説明とはちょっとずれるように思いますが。)
三国は、とりあえず、「器具」に新明解の1の用法を書き足せばいいのだろうと思います。
そこはそれでいいとしても、私には三国が「道具」を2つの用法に分けたことがどうもピンときません。
「仕事に使う器具」と「一般の器具」を分ける必要があるのかどうか。「道具」としての違いはないように思うのですが。
それと、「道具」には、「言語はコミュニケーションの道具である」という ような、「器具」とは言いにくい多少ひゆ的な言い方もできるので、そのことも触れておいたほうがいいと思います。
言い換えると、「道具」は「器具」よりもずっと広い意味の広がりを持つ語なのだろうと思います。その辺のことをどう語釈に表せばいいのだろうか、などと考えています。
なお、三国の「機械」の語釈に「しかけ」という語がありました。
機械 人が手でする仕事を、代わりに動力がするしかけ。 三国
この「しかけ」をさらに追いかけてみると、
しかけ くふうされたしくみ。からくり。「奇術の-」
しくみ 機械・組織などの、全体の組み立て。構造。「政治の-・年金の-」
組み立て 2構造。構成。
構造 〔機械・組織・文章などの〕全体を成り立たせる、内部の組み立て。「からだの-・-的な〔=そのものの構造と関係のある〕危機」 三国第七版
「しかけ」は「しくみ」で、「しくみ」は「組み立て。構造」で、「組み立て」は「構造」、「構造」は「組み立て」です。
どうもあまりうまくいっていないようですが、こちらはいかにも抽象的な概念なので、「道具」などよりも難しいのだろうと思います。これは仕方がないかと。