ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

土星(の衛星の数)

前回の続きです。前回は木星の衛星の話でした。今回は土星です。

まず、新明解の記述から。第七版から八版への大きな変化を見ます。

 

  土星 太陽系の惑星で、六番目に太陽に近いもの。まわりに十八個以上の衛星と環(ワ)を持つ。約二九・五年で太陽を回る。   新明解第七版(2012)


  ~まわりに環および判明しているだけでも五十三個の~   第八版(2020)

 

「十八個以上」から「五十三個」へ急増しました。

 

では、明鏡国語辞典。 

 

  太陽から数えて六番目の軌道を回る惑星。惑星の中では木星についで大きい。赤道の周囲に無数の小天体からなる環があり、ほかに六〇個以上の衛星が確認されている。サターン。  明鏡第二版(2010)・三版(2021)

 

明鏡は第二版(2010)で「六〇個以上」でした。

三国は第六版(2008)で「五十九個」、第七版(2014)で「六十二個」です。

また表の形で並べてみましょう。広辞苑の五版もついでに。(私は、広辞苑の他の版は持っていないので。)

 

                    明鏡初版2002 二版2010    三版2021
                       30    60以上     60以上
新明解 二版1974 三版1981 四版1989 五版1997 六版2005 七版2012 八版2020
     10    10    17    17    18以上  18以上  53
三国  二版1974       四版1992  五版2001 六版2008 七版2014
     10          17     24    59    62
広辞苑                 五版98
                     18以上

 

土星の場合も、木星の場合と同じように、新明解が(六版・七版の改訂で)新しい情報を追いかけていないことがわかります。

 

大辞泉・百科事典などの記述。

 大辞泉  60個以上の衛星をもつ。

 知恵蔵  衛星は56個確認され、不確実なものを含めると59個になる。

 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典  衛星は 60個以上確認されている。 

 wikipedia  土星は少なくとも82個の衛星を持ち、~(「土星」の項)
    2019年10月に新たに20個の衛星が発見されたことにより、(「土星の衛星」の項)

「82個」!だそうです。

 

前回も書きましたが、(小型の)国語辞典がこのような新知識を追いかけていくべきなのかどうかという点について、私はどちらかと言えば消極的な意見です。火星などならともかく、どんどん数が増え始めた木星土星については、「多数の衛星を持つ」でもいいのではないか。それ以上のことを知りたかったら、別の本・ネットなどで調べてください、という態度でいいのではと思っています。

しかし、衛星の数まで書くなら、きちんと調べて、最新の科学的知見を書くべきだ、ということも前回書きました。惑星の衛星ぐらいのことなら、毎年出ている「天文年鑑」を見ればわかることではないでしょうか。

 

新明解は、どうも自然科学関係の項目が弱いように思います。(数学だけは妙に専門的なのですが。)

 

余談:

今回、wikipediaを調べてみて知ったのですが、「太陽系の惑星と衛星の発見の年表」というすごい記事があります。こんな多大な労力を必要とする記事を、いったいどういう人が書くのだろうかと思います。(日本語の辞書や文法についてこのぐらい役に立つ資料を作ってくれる人がいたらなあ、とも思いました。)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E9%99%BD%E7%B3%BB%E3%81%AE%E6%83%91%E6%98%9F%E3%81%A8%E8%A1%9B%E6%98%9F%E3%81%AE%E7%99%BA%E8%A6%8B%E3%81%AE%E5%B9%B4%E8%A1%A8