泥臭い 1泥のにおいがする。「━水」2洗練されていない。やぼったい。「身なりが━」 明鏡
1〔いなかから出て来たばかり(のよう)で、言動や服装などが〕洗練されていない様子だ。 新明解
新明解に「泥のにおい」の用法が抜けていることや、「田舎から出てきたばかり」という説明が適切かどうかという問題もありますが、もう一つ、「泥臭い」ことをよしとする、積極的に評価する用法がないことが問題だと思います。
むろん、元の意味とは違う、派生的な用法ではあるのでしょうが、それほど「新用法」でもないでしょう。
三省堂国語辞典から。
1どろのにおいがする感じだ。土くさい。「-川ざかな」2いなかくさい。やぼったい。「-が誠実な人」3〔スポーツで〕かっこうよく見せようとせず、勝つことだけをめざすようす。「泥くさく点を取る」 三国
三国は「〔スポーツで〕」とし、「勝つことだけを目指す」としていますが、より広く何らかの目的のために「かっこうよく」ない努力をしていくことを「泥臭く」というのは、よくある言い方ではないでしょうか。
書きことばコーパスを見てみると、「泥臭い」に続く名詞として、
仕事 作業 方法 プレー 努力 営業
などがあり、「泥臭く」に続く動詞には、
やる する 生きる 頑張る 努力する 営業する 戦う
などがあります。
こういう表現がいつごろから使われるようになったかは調査が必要ですが、私の感覚ではそれほど新しいものではありません。
明鏡と新明解は「改訂」を最近したばかりですが、この用法も入れておいてほしかったと思います。
岩波の語釈が面白いのであげておきます。(前半は省略)
(あかぬけないが)地道に、体を張る。「-プレー」 岩波八版
「体を張る」というのはどこから出てきたのでしょうか。
体を張る 自分の身を犠牲にするつもりで、懸命に事に当たる。 明鏡
危険をおそれず、全力でする。「体を張ったプレー」 三国
一身をなげうって行動する 岩波
「泥臭い」のとはかなり違うように思うのですが。「泥臭い営業」とか。
そもそも、岩波の語釈で「地道に、体を張る」というのが無理な組み合わせのように思います。
「地道に、一身をなげうって行動する」って、なんか変じゃありませんか?
じみち 〘名・ダナ〙手堅いしかた。冒険や人目を引くような行動に出ず、着実に進む態度。「―な研究」「―に努力する」▽もと、普通の速さで歩くこと。また馬術で、馬を並足で進ませること。 岩波
「体を張る」のは「地道」なやり方ではないでしょう。
追記 21.10.30
岩波の「地道に、体を張る」という説明は、第八版で書き加えられたものでした。
七版は、
泥臭い 泥のようなくさみがする。転じて、好みなどがあかぬけていない。やぼったい。
というものでした。
それを八版で、
泥臭い ①泥のようなくさみがする。
②転じて、見た目があかぬけていない。「―格好」。(あかぬけないが)地道に、体を張る。「―プレー」
と「改訂」したわけです。
「改訂」でおかしなことになった残念な一例です。