ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

国語辞典と省の略称

形容動詞周辺の品詞の話はまだ続けたいと思っていますが、気分転換に違う話を。

以前、「もんかしょう・こっこうしょう」の話を書いたことがあります。(「2015-05-10  もんかしょう」「2015-05-16  他の省庁」)

これらの「-しょう」は、「省」つまり役所も、「相」つまり大臣も指すはずだけれど、国語辞典はそれらを両方書いているだろうか、という疑問が始まりでした。結果は、

 

  もんかしょう 文科省      明鏡・新明解・現代例解
         文科相      岩波
              文科省文科相  三国

 

でした。他に「こっこうしょう・のうすいしょう」も調べてみましたが、三国の独走でした。

 

この2015年では、三国以外の国語辞典はみな一つ前の版でした。その後、それぞれ改訂されたので、新しい版を見てみたいと思います。

長い名前の省で、短縮した言い方がある五つの省を調べます。

まず三国の模範的な記述から。(〔文〕は「文章語」の略語です。品詞表示などは略。)

 

  けいさんしょう 経産省 ←経済産業省
  けいさんしょう 経産相 〔文〕経済産業大臣。経産大臣。

  こうろうしょう 厚労省 ←厚生労働省
  こうろうしょう 厚労相 〔文〕厚生労働大臣。厚労大臣。

  こっこうしょう 国交省 ←国土交通省。こくこうしょう。 
  こっこうしょう 国交相 〔文〕国土交通大臣。国交大臣。こくこうしょう。

  のうすいしょう 農水省 ←農林水産省
  のうすいしょう 農水相 〔文〕農林水産大臣。農水大臣。農相。   

  もんかしょう  文科省 ←文部科学省
  もんかしょう  文科相 〔文〕文部科学大臣。文科(モンカ)大臣。  三国七版

 

「こくこうしょう」という発音まで書いているあたり、さすがです。

次に明鏡。

 

  けいさんしょう  項目なし(「経済産業省」はあります)
  こっこうしょう  項目なし(「国土交通省」はあります)
  のうすいしょう  項目なし(「農林水産省」の項があり、そこに「農水省」とあります)
  こうろうしょう 厚労省 「厚生労働省」の略。
  こうろうしょう 厚労相 厚生労働大臣の通称。
  もんかしょう  文科省 「文部科学省」の略。   明鏡三版

 

不揃いですね。「こうろうしょう」だけ、きちんと書いてあります。文科省は省だけ。編集者が仕事をしていない。これは二版から変わっていません。つまり、改訂の際に見直した形跡はありません。

 

新明解はどうでしょうか。七版から八版への改訂で大きく変わりました。両方並べます。

 

 七版
  けいさんしょう  項目なし  (「経済産業省」の項に「経産省」あり)
  こうろうしょう 厚労相 「厚生労働大臣」の別称。
   (「厚生労働省」の項に「厚労省」あり)
  こっこうしょう 国交相 「国土交通大臣」の別称。
   (「国土交通省」の項に「国交省」あり) 
  のうすいしょう 農水相 「農林水産大臣」の別称。
   (「農水省」は「農林水産省」の項になし)
  もんかしょう 文科省 「文部科学省」の略。   新明解七版

 

七版は不揃いでした。文科省だけが役所名で、他の三つは大臣のほうだけ。「けいさんしょう」はどちらもなし。この時は、編集者はこの不揃いに気付いていませんでした。(気づいていて直さない、ってことはないですよねえ。)

 

 八版  
  けいさんしょう 経産省 「経済産業省」の略。
    (経済産業省の項に〔長官は、経済産業大臣。別称は経産相〕とある)
  こうろうしょう 厚労省 「厚生労働省」の略。
    (厚生労働省の項に〔長官は、厚生労働大臣。別称は厚労相〕とある)
  こっこうしょう 国交省 「国土交通省」の略。 
    (国土交通省の項に〔長官は、国土交通大臣。別称は国交相〕とある)
  のうすいしょう 農水省 「農林水産省」の略称。
    (農林水産省の項に〔長官は、農林水産大臣。別称は農水相〕とある)
  もんかしょう  文科省 「文部科学省」の略。
    (文部科学省の項に〔長官は、文部科学大臣。別称は文科相〕とある)

                           新明解八版

 

編集者が仕事してますねえ。こうでなくっちゃ。しかし、私はやはり三国のほうがいいと思います。

誰かの話し声や、テレビやラジオからの音で「けいさんしょう」と聞いた時、意味に二つの可能性があるからです。新明解のこの書き方では、「経産相」に行きつくのは難しいでしょう。

 

三国が大臣のほうに〔文〕とつけているのは、話しことばではあまり言わないだろうということでしょうが、必ずしもそうだとは言えません。

 

新明解は七版のばらばらの状態を、八版できちんと揃えました。これが「改訂」というものです。明鏡も次の改訂で直してほしいものです。

(新明解で、一か所だけ、揃っていないところがあるのに気づきましたか? 「農水省」だけ、「略」でなくて「略称」となっています。私の打ち間違いではありません。)

 

疲れてきたので、他の辞書はまた次回に。