ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

広辞苑の副詞

前回は「擬声語・擬態語は名詞の一類とするべきである」という広辞苑の「日本文法概説」の説明がまるでわからないという話を書きました。(引用したのは第五版の「文法概説」ですが、その方針は第七版でも変わっていません。)

 

では、広辞苑の副詞とはどういうものなのか、「文法概説」(第七版)の「副詞」を見てみましょう。議論に関係しないところを省略しながら引用します。

 

   副詞は、用言(動詞・形容詞・形容動詞)を修飾する語で、活用しない。
  程度副詞・状態副詞・陳述副詞(呼応副詞)に分類するのが一般的である。
  「こう」「そう」などの指示語、「なぜ」「どうして」などの疑問詞も副詞に
  含めることができる。(略)

   状態副詞は動作の様態や出来事の状態を表す語で、「ときどき(休む)」
  「いつも(笑っている)」「そっと(撫でる)」などである。擬態語・擬音語
  もこれに属する。(略)

   副詞は、連用修飾をする語のうち、名詞・用言以外のものをまとめたため、
  その由来は多様であり、大多数の研究者が一致できるような分類は難しい。(略)

   擬態語・擬音語の副詞表現は、「~と」「~に」の両形をとる語(「がたがた」
  「ばたばた」など)もあれば、「~と」のみの語(「はっきり」「こわごわ」
  などもある。四音節以上であれば「にこにこ笑う」のように「と」が無くても
  かまわない。前述のタリ活用形容動詞の場合「堂々と行く」「粛然と襟を正す」
  のように原則として「と」は必要である。本書では擬態語・擬音語は形容動詞
  語幹と同様に扱うが、「ぎゅっと」「ぴんと」のようにかならず「~と」の形を
  とる語は、副詞に分類する。  広辞苑第七版 付録「日本文法概説」p.207-208

 

途中に、擬態語・擬音語は状態副詞に属するとあり、一般的な説と変わりません。

しかし、最後の一文で突然独自説になります。最後の「本書では擬態語・擬音語は形容動詞語幹と同様に扱う」というのは、つまりは「名詞として扱う」ことを意味します。そうする根拠は、前回見た、わけのわからぬ論理(?)のみです。(「状態副詞に属する」けれども「名詞」なのです!)

「~と」の形はさすがに名詞扱いできないので、副詞とします。すると、「ぎゅっと詰める」は副詞で、「ぎゅうぎゅう(と)詰める」は名詞となります。このあたり、私には論理がわかりません。

 

第七版の「副詞」は、ほぼ2ページ分あり、その解説の一部を上に引用しました。

第五版の「副詞」は、1ページ分しかなく、その半分は副詞の語例です。残りのわずかな解説部分から引用します。名詞と副詞の関係について述べています。(第七版にはこの説明はありません。)

 

   日本語においては用言(動詞・形容詞・形容動詞)を修飾する働きのある語を
  副詞という。副詞は修飾する機能のある語であり、文中に使用する際に、名詞と
  同様に特別の語形変化をすることはない。従って、「昨日」「一個」のような語は、
  名詞・副詞両用の機能があり、名詞としての語が副詞のように使われたと考える
  ことができる。それに対して、「ただちに」「まず」「もし」「やや」「ほぼ」
  「すっかり」「全然」「もちろん」などのような語は、用言および他の副詞に
  副(そ)う以外の用法がないところから、これを本来の副詞と考えることができる。
  本書では、原則としてこれらの語のみを副詞として取り扱った。

                 広辞苑第五版「日本文法概説」p.2892

 

「本来の副詞」という考え方が述べられています。そして、「これらの語のみを副詞として取り扱った」という明快な原則を立てます。他の用法を持つものは副詞としないのです。 

そうすれば副詞という品詞はすっきりするでしょうが、様々な用法を持った語が「名詞」とされ、名詞の中はごちゃごちゃになってしまいます。

 

そこのところを解説したのが、第五版の「名詞」の解説(前回の記事で引用しました)だったのですが、第七版でその部分はすべて削除されてしまいました。(さすがに、論理が通っていないと判断されたのでしょうか?)

しかし、語の分類そのものはそのままです。名詞の中には、「形容動詞の語幹」も、「擬態語・擬音語」も含まれています。

 

ただ、幸いなことに、名詞は品詞の表示をしないので、辞書本文はすっきりしています。

 

  名詞および連語には、原則として品詞の表示を省略した。
                        広辞苑 凡例「品詞の表示」

 

例えば「きゅうきゅう」は、広辞苑と岩波国語辞典では次のような品詞表示になります。

 

  きゅうきゅう (品詞の表示なし)  広辞苑

  きゅうきゅう 〔副[と]・ノダ・ス自〕   岩波

 

広辞苑は品詞表示がなく、すぐに語釈が続きます。用例が一つありますが、用例のついていない用法は、どういう形になるのかわかりません。品詞表示がないということは、文法に関する情報がないということです。

岩波は、ごちゃごちゃした品詞表示ですが、その分、得られる情報量が多いのです。副詞であり、岩波独自の「ノダ」という語類であり、「する」がついて自動詞となることが示されています。(ただ、岩波は用例がなく、実際にどう使われるのかがわからないのが大きな欠点です。)


さて、以上が広辞苑の副詞についての基本的な方針です。で、実際にどういう語が副詞とされているのか、副詞とされそうな語をいくつか見ていくと、副詞とするものと「名詞扱い」の語との区別がどうもわかりません。

「え? これは副詞で、これは違うの?」と思うことが何度もありました。

 

その辺の難しさを実感するために、ちょっと趣向を変えて、「練習問題」の形で考えてみましょう。(突然、練習問題のあるブログというのも面白いんじゃないか。)

 

◇練習問題

次の37語の中で、広辞苑で副詞(の用法がある)とされる語はどれか。
版によって扱いが変わった語もあります。   (ヒント:半数近くあります)

 

 1あかあか    2あっさり   3あまり      4ありあり

 5がたがた    6がっちり   7がっぷり    8がっぽり

 9ぎっしり    10きっちり   11ぎっちり   12こつこつ   

 13こっそり   14ごっそり   15さっぱり   16しっかり

 17しっくり   18じっくり   19しばしば   20すっかり   

 21すっきり   22ずっしり   23たっぷり   24たんまり   

 25どっさり   26とつぜん   27ぴくり    28びっくり   

 29びっしり   30べたべた   31ぼんやり   32まるっきり

 33みっちり   34ゆっくり

 35ぜったいに  36ほんとうに  37めったに (この3語はフロクです。)


いやあ、このブログは何なんだ……

 

(22.9.13  例語を一部差し替えました。)