ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

成人:成-

「おとな」の話の流れで、ちょっと方向を変えて動物の話。

人間の子供が成長して「成人」になるなら、他の動物は成長して何になるのか。例えば「魚」は。「成魚」ですね。

 

  成魚  成長した魚。     明鏡
      成長した魚。     例解新
      成長した魚。     現代例解
      成長した魚。     集英社

 

これらの語釈は、「成」と「魚」に分けてみました、ということですか。

もう少し何とかならないものでしょうか。

 

     十分に成長した魚。     旺文社
     十分に成長したうお。    新選

 

「十分に」をつけても意味ははっきりしません。

「魚」は「うお」なんでしょうか。私は「さかな」と読んでいました。

「さかな」とする辞書もあります。

 

  成魚  じゅうぶんにそだったさかな。   三省堂国語

 

上の明鏡その他はどっちで読んでいるのでしょうか。

さて、「成長した」も「育った」も同じようなものですね。

では、成長とは。

 

    成長 名・自サ変 人間や動物が育って一人前になること。
     「子どもの━記録」「あそこで我慢できるとは、君も━したね」   明鏡

 

おやおや、また「一人前」ですか。どうもこの言葉が好きなようです。

 

もう少し、他の辞書の「成魚」。

 

    成体の段階まで育った魚。   新明解

 

「成体の段階」というと、ずいぶん学問的な感じがします。

では、「成体」とは。

 

      成体 生殖作用を営むことが出来る程度に成熟した動物。 新明解

 

そういうことですね。「成魚」になるということは。


「成魚」の項で、このことをはっきり書いている辞書もあります。

   成魚  生殖が営めるまでに十分に成長したさかな。     岩波
     稚魚・幼魚から成熟して生殖機能をもつようになった魚。 学研現代
 
動物が「成熟する」ということは、次の世代を産み出せるようになる、ということです。

で、前の回の話に戻って考えると、人間が「成人」つまり「おとな」になるということも、次の世代を産み育てられるようになることなのでしょう。

ただ、人間の場合には、身体的な成熟の他に、社会的に「一人前」になることが、次の世代の「親」となるために求められるのです。

多くの国語辞書は、この社会的なほうを「成人」の根拠にします。

「おとな」は、社会的な面と、生物学的な面の両方が求められるんじゃないでしょうか。

その辺のことを、「おとな」の項で書けというのはちょっと過大な要求でしょうか。