ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

ああいう

三省堂現代新国語辞典第六版』の検討です。「ああ」に続いて「ああいう」をとりあげます。

 

  ああいう (連語)あのような。「-人になりたい」[類]ああいった・ああした [関連] こういう・そういう・-・どういう   三省堂現代新

 

語釈に使われた「あのような」の意味を、「あの」+「ような」と考えてそれぞれ調べます。

 

  あの <連体>1自分と相手のどちらのがわにもない事物や人をさすことば。「-机・-人」2(以下略)  三省堂現代新

  ような [助動詞「ようだ」の連体形] 1たとえるときに使う。「絵の-景色」2例としてあげるときに使う。「犬や猫の-動物」(以下略)  三省堂現代新

 

「あのような人」は、「あの」の「人をさす」例ですし、「ような」の2「例としてあげる」にあてはまるでしょう。(連体詞が助動詞に接続することの文法的説明ができないことはおくとして)

幸い、用例の説明はそれでなんとかなるとして、ちょっと引っかかるのは[類] のところです。

「ああいった・ああした」と二つの表現があげられているのですが、これらはこの辞書の中で説明されていません。項目としてありませんし、「ああ」と「いった/した」のそれぞれの語の複合語として意味を考えることもできません。これらが類義であるというのはいいのですが、まったく同じように使えるのか、微妙な違いがあるのかがわかりません。

「ああいう」と「ああいった」とでは何か違いはあるのか、あるとしたらどういう点なのか。「ああした」はどのように使えばいいのか。そのことを示さずに、ただ [類] として示されても、辞典の利用者は困るのではないでしょうか。「類義語・類義表現」として他の形を示すならば、その詳しい説明が同じ辞書の中から探し出せるものでなければなりません。

 

新明解・明鏡は「ああいう」の項目はありません。三国は、

 

  ああいう(連体)あのような。あんな。  三国

 

だけです。

ですから、三省堂現代新が「ああいう」を項目としてとりあげ、三国よりも情報量の多い記述をしたことは高く評価されることなのですし、「ああいった・ああした」という、これまた他の辞書がふつうはとりあげない形を類義表現として示したことも有意義だとは思うのですが、そこまで行くなら、さらにもう一歩踏み込んでほしかったと思うのです。

しかし、「ああいう・ああいった・ああした」の微妙な差をきちんと記述するのは難しそうですね。