ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

新明解と形容動詞:「-な-に」/「-な」

前回の続きで、新明解国語辞典の形容動詞の扱いについての話です。

新明解は「形容動詞」という品詞を独立した品詞として認めていません。
例えば「きれい」は、基本的に名詞で、

  きれい -な-に

と表示され、

  名詞(品詞無表示)のほかに連体形に「な」、連用形に「に」の用法

を持つもの、とされます。

もう少し例をあげると、

  遺憾  粋  意地悪  異常  偉大  いちず  一生懸命  異様

などが「いわゆる形容動詞の用法」を持つものとされ、「-な-に」の表示があります。

ここで新明解の興味ぶかいところは、上の「-な-に」という表示とは別に、

 

  -な-に  名詞のほかに連体形に「な」、連用形に「に」の用法
  -な    右のうち、一般には連体形の用法だけのもの
   (原文縦書き 「右」とはここでは「上」を指す)   新明解「編集方針」から

 

という区別を立て、「-な」だけのものも示していることです。

これは、他の国語辞典ではどちらも単に「形容動詞」として区別されていないものです。

例えば、

   異質  異色  嫌味  色白  淫乱  腕利き  浮気  うわて

などがこの「-な」の表示を与えられています。(これらはみな、三省堂国語辞典では「形動」とみなされているものです。)

つまり、三国や、他の多くの国語辞典では区別されずに「形容動詞」とされているものが、新明解では「-な-に」と「-な」の二つのグループに分けられているということです。

これは、非常に大きな、有益な情報(であるはず)です。

 

ただし、この場合の連用形「-に」の用法とはどういうものか、が問題です。

上の(「-な」だけとされた)「異質・異色・嫌味・色白」などは「-に」の形では使えないかというと、そうでもありません。

  異質に見える  異質に感じる  異質になる
  異色に見える  異色に感じる  異色にする 
  嫌味に聞こえる  嫌味になる  嫌味に感じる  嫌味に思える
  色白になる  色白にする  色白に見える  色白に見せる

など、「-に」になる例は実際にあります。(NINJAL-LWP for TWCによる)

さて、どう考えたらいいのでしょうか。

これらの「-に」は「編集方針」でいう「連用形「に」の用法」と見なされないのでしょうか。もしそうなら、なぜそう考えるのかという議論(説明)が必要です。

 

上の新明解「編集方針」の、「右のうち、一般には連体形の用法だけのもの」とはいったいどういうことなのか、具体的な(詳しい)説明がどこかにあるべきなのですが、それはどこにもありません。(そもそも、なぜ「形容動詞」という独立した品詞を認めないのかということも。)

新明解には、明鏡の「品詞概説」(5ページ分)や岩波国語辞典の「語類概説」(6ページ余)に当たるものが何もないので、品詞分類について編集者がどういう(独自の)考えを持っているのか、前々回に引用した「編集方針(細則)」以外の情報がないのです。(品詞分類についての説明がないことは、三国も同じです。ただ、おそらく三国はいわゆる学校文法とほとんど同じなのだろうと思われます。)

まったく、困ったものです。