固有名詞2:古典文学
前回の続きで、三省堂現代新国語辞典第六版の固有名詞を見ていきます。
「文学関係の人名・作品名を収めて」いるということで、どんな人・作品が入っているのか、あれこれ引いてみました。(我ながらひまじんです。)
古いところから見ていくと、まずは古事記・万葉集からです。太安万侶、柿本人麻呂・額田王・山上憶良・山部赤人・大伴旅人・家持がいるのを確認しました。ほかにもいるかもしれません。天皇は見つかりませんでした。日本書紀はもちろんあります。(しかし、「文学」ではありませんね。)
平安時代から鎌倉あたり。竹取物語、土佐日記、古今和歌集、伊勢物語。紀貫之、在原業平。源氏物語・枕草子、紫式部と清少納言。平家物語。この辺は当然でしょう。蜻蛉日記、藤原道綱の母。和泉式部、和泉式部日記。大鏡もありました。増鏡、太平記。後白河法皇と梁塵秘抄。
藤原は定家(新古今和歌集)・俊成(千載和歌集)・公任(和漢朗詠集)がいました。かっこ内の文学作品も項目になっています。道長はいません。源氏は実朝のみで、頼朝・義経はいません。文学関係者のみです。そこははっきり分けられています。
ほかには菅原孝標女(更級日記)、菅原道真など。
これまでのところで、人名と作品名の両方が揃う場合と、そうでない場合があります。竹取のように作者がわからない場合は当然ですが、菅原道真の作品名、と言われても浮かびません。
江戸時代に入って、芭蕉と奥の細道、与謝蕪村、小林一茶とおらが春は必須でしょう。蕪村の作品は項目にはないようです。芭蕉は猿蓑もありました。
上田秋成、本居宣長、井原西鶴、近松門左衛門。作品名では雨月物語、古事記伝・玉勝間、世間胸算用・日本永代蔵、曽根崎心中。滝沢馬琴、十返舎一九、鶴屋南北(東海道四谷怪談)もありました。
変わったところで新井白石。新井白石の作品名は見つかりませんでした。なぜ新井白石は項目になっているのでしょう。自伝「折りたく柴の記」は文学と言えるでしょうが、今の高校教科書にあるのでしょうか。
さて、これら古典の人名・作品名は、現代語の国語辞典に必要なものかどうか。もちろんあって悪いものではありませんが、ふつうの名詞や動詞が並ぶ中に、これらの固有名詞が突然現れ、わりと詳しく解説されます。その、違和感と言っては大げさかもしれませんが、これ、どうなのかなあ、という割り切れない気持が、私にはあります。
古語辞典なら、何の不思議もないものですね。古語辞典の付録に年表があって、その中で解説されたりすることがあります。それならまったく自然に感じます。(付録として「文学史年表」を載せ、そこにこれらの人名と作品名を配置すれば、前後関係・流れもわかっていいんじゃないでしょうか。)
まあ、わからないことばを辞書で引いた高校生が、これらの項目をついでに見て、興味をひかれることがあれば、それでいいということでしょうか。