岩波八版:「語類概説」
岩波国語辞典の一つの長所は、付録に語構成と文法(品詞)の解説があることです。
第六版(2000)では「語構成概説」が4ページ、「語類概説」が5ページでした。
第八版(2019)の「語構成概説」は、最後に「図解」のようなものが増えたほかは同じです。
しかし、「品詞概説」のほうは、「語類概説」という名前に変えられ、6ページと少しになりました。つまり、八版(七版から)は六版より詳しくなっているわけです。増えた部分は「名詞・代名詞」と「副詞」が主です。
六版の「品詞概説」の初めの部分を見てみます。
現状では品詞の立て方は学者によってかなりまちまちである。しかし大筋では大体同じような所に落ち着くと見てよい。本書で採った品詞分類も、ほぼその線に沿っている。
岩波第六版 品詞概説 p.1318
八版の「語類概説」はどうかというと、
現状では品詞の立て方は学者によってかなりまちまちである。大筋では同じような所に落ち着くと見ることもできようが、それは妥協の産物であり筋が通らない点が多い。
学校文法でお馴染みの品詞分類には、実際の文章に当てはめると、まずい所がいろいろ見つかる。これを考慮してこの辞典の見出しには通例とやや変わった語類表示を与えてきた。その語類とは品詞を拡張した概念で、文法上同じ用法の語が同じ語類に属することを企てる。この企ては語のどんな特性に着目するかに依存する。それゆえ、従来の品詞と対照する述べ方で、(それは従来の品詞がごく大まかな語類分けと見られるからであるが、)この辞典の語類について解説しよう。このような語類の採用は用法の記述を精密にする。
岩波第八版 語類概説 p.1700
六版では「~に落ち着くと見てよい」と言い切っていたのが、「~に落ち着くと見ることもできようが」と方向を変えられ、「妥協の産物」とか「まずい所がいろいろ見つかる」など、正反対のことをいろいろ言っていて、面白いです。
第七版(2009)からこの書き方になっています。これを書いたのは、編者の水谷静夫でしょう。水谷は、独特の理論を持つ日本語研究者として有名な人でした。(2014年没)
岩波国語辞典の編者は、第七版までは表紙に3人の名前が書かれていました。西尾実・岩淵悦太郎・水谷静夫です。これは、私が持っているいちばん古い版である第二版(1971)から変わっていません。
六版までの「品詞概説」を書いたのが誰かはわかりませんが、西尾・岩淵の考え方が反映しているのでしょう。
第七版の「あとがき」によれば、西尾・岩淵の二人は1970年代に亡くなっているので、1986年の第四版からは水谷静夫が中心になっていたわけです。ですから、「品詞概説」を書き直すならもっと早くできたはずですが、遠慮していたのでしょうか。
(なお、第八版になって柏野和佳子・星野和子・丸山直子の三人が加わり、表紙に6人の名前が並んでいます。この版では、水谷はすでに亡くなっているので、この三人が中心になって編集したものと思われます。)