貞淑・おてんば
新明解国語辞典第八版の項目を検討します。このブログで以前とりあげたものです。
(2020-09-27 貞淑・貞操)(2020-10-01 おてんば)
第七版の記述から。
貞淑 〔妻が〕夫の不身持ちや乱暴にかかわらず、家庭を守り、あくまでも
夫を立てて従順を宗(ムネ)とすること(様子)。⇔不貞 新明解第七版
この項目は、目にした途端、ダメだと思いました。
「夫の不身持ちや乱暴」がなくたって、貞淑と言っていいでしょう。
新明解の「個性的な」、しかし行き過ぎた、誤った語釈です。
第八版への改訂で、大きく書き換えられました。
貞淑 〔妻としての〕貞操を守る様子だ。〔やや古風な表現〕 ⇔不貞 第八版
ずいぶんおとなしくなりました。
女性が貞操を固く守り、しとやかなこと。「━な妻」 明鏡
〔妻が〕貞操を守り、しとやかなこと。 三国
新明解も普通の国語辞典の書き方になりました。「やや古風」という注記もいいですね。
もう一つ。
おてんば 女性としてのたしなみを忘れて ふざけさわぐ少女(女性)。 新明解第七版
女児や(若い)女性が、周囲に気兼ねすることなく活発に行動すること(様子)。また、その女児や女性。おきゃん。〔まわりの人はもう少したしなみを持って欲しいと思っている場合が多い。〕 新明解第八版
ずいぶん変わりました。
少女(女性)に対して批判的な評価を明らかにしていた第七版から、その行動を積極的に描写する第八版へ。
「ふざけさわぐ」から「活発に行動する」へ。
かっこの中は、重要な補足と言えるか、あるいは余計なお世話か。「たしなみ」ということばをどうしても言いたかったのか…。
「周囲に気兼ねすることなく」というのは、女性が「活発に行動する」のは「周囲に気兼ねする」ことだった、という「社会通念」を前提にしているのでしょう。それをはねのけている女性。
そこは肯定的に書いているのに、「まわりの人」の思いに忖度しているようなカッコの補足…。
ここで問題は、彼女らを「おてんば」と呼んでいるのは「まわりの人」なのか、あるいは辞書の編集者がそのような名づけをしてしまっているのか、でしょう。
明鏡は、あっさりと、肯定的です。
若い女性が元気よく、活発に動き回ること。また、そのような女性。「━な妹」「━娘」 明鏡
しかし、ここでも問題は、そのような女性を「おてんば」と呼ぶのはなぜか、でしょう。
かつての新明解に限らず、「おてんば」な女性に批判的な国語辞典は多いのです。
若い娘や女児がしとやかさに欠け、いたって活発な・こと(さま)。また、そういう女。おきゃん。「うちの娘は-で困る」「-な女の子」「-をする」 大辞林
若い女性が、恥じらいもなく、活発に行動すること。また、そのさまや、そのような娘。おきゃん。「お転婆な少女」 大辞泉
「しとやかさに欠け」「恥じらいもなく」です。
明鏡の描写するような女性を「おてんば」と呼ぶということは、やはり、その言葉の後ろには、強く否定的なものの見方があるのです。まだ。
それをどう書くか。辞書編集者もなかなか大変です。