ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

ウエーブ・ウイング

新明解国語辞典第八版の項目を検討します。このブログで以前とりあげたものです。

 (2017-08-11 ウエーブ 2017-08-20 ウイング)

 

niwasaburoo.hatenablog.com

サッカーなどでの「ウエーブ」について。新明解第七版が独特だった項目です。

標準的な書き方を三省堂国語辞典の「ウエーブ」の項目から。

 

   ウエーブ〔wave=波〕③〔競技場やイベントの会場で〕観客がつぎつぎに立ち上がってはすわる、波うつような動き。「-が起こる」▽ウェーブ。  三国

 

この用法について、ほとんどの辞書が同じような説明をする中で、新明解第七版は独特の解説をしていました。

 

   ④〔競技場や球場で〕声援を送るために、多数の観衆が互いに肩を組んで左右にからだをゆすり、波が生じたような動きを見せること。  新明解第七版

 

「立って、座って」ではなく、「左右に体を揺する」というのです。(もちろん、立った状態で、でしょう)

これは野球の観客にありそうな話(大学野球?)だと思いますが、どうでしょうか。しかし、それを「ウエーブ」と言っているのかどうか。(この用法は第六版にはありません。第七版で初めて登場したものです。)

 

これは第八版で決定的に変わりました。

 

   ④〔競技場や球場で〕声援を送るために、多数の観衆が手を上げながら順番に立っては座ることで、波が生じたような動きを見せること。  新明解第八版

 

変わったと言っても、前半の「~多数の観衆が」までは同じで、終わりの「波が生じたような~」も同じです。

その間の「互いに肩を組んで左右にからだをゆすり」が「手を上げながら順番に立っては座ることで」に変わったわけです。つまり、「手を上げながら」以外は上の三国とほぼ同じ内容です。

やはり、「肩を組んで~」ではまずいと思ったのでしょう。(しかし、その記述はどこから来たのでしょう。そして、どうしてそれを「ウエーブ」の説明として書いていたのか。)

新明解が、「ごく普通の辞書」になってしまった(?)項目です。

 

次は、同じくサッカーなどで言う「ウイング」の話。

niwasaburoo.hatenablog.com

これも三国から始めます。あまりよく書けていません。

 

   ウイング ②〔サッカー・ラグビー・ホッケーなどで〕両はしの位置(の選手)。  三国

 

「両端」ならば「ウイング」と言えるわけではありません。守備の選手が「両はし」にいても、「ウイング」とは言わないでしょう。

 

新明解第七版・八版。改訂による変更はありません。

 

   ③〔サッカー・ハンドボールなどで〕前衛の左右両端の位置(に着く人)。

 

「前衛」です。サッカーなどではそれでいいようですが、ラグビーで「ウイング」というと、「バックス」のことではないでしょうか。「フォワード」ではなく。

つまり、必ずしも「前衛」ではないのでは?

 

   ②サッカーのフォワードやラグビーのバックスなどで、左右両はしの位置。また、その位置につく選手。    旺文社

 

「前衛」とはどういう位置・役割の選手を指すか、という問題なのかもしれません。

 

   ③サッカー・ラグビーハンドボール・バレーボールなどで、左右両端の攻撃位置(につく人)。    学研現代

 

学研現代は「攻撃位置」と言っています。これが、サッカーなどの「フォワード」と、ラグビーの「バックス」の「ウイング」に共通するものと言っていいのかどうか。スポーツに詳しい人に教えていただきたいところです。

新明解の語釈は、ラグビーのバックスをどう考えるかという点で、やはり考え直す必要がありそうです。もちろん、三国も。