新明解国語辞典第八版の項目を検討します。
今回は「親」です。
新明解の項目には、読んですぐ、これはダメだよね、と思うような、非常にわかりやすい問題点のある記述がけっこうあります。
これまでとりあげた中にも、そういう項目がいくつもありました。
この「親」もその一つです。
親 1その人を生んだ(と変わらぬ情愛を持って養い育ててくれた)一組の男女。〔広義では、祖先・元祖を指す〕「最も尊敬するのは-だ/-を見捨てる(ばかにする)/生みの-より育ての-/-兄弟・ 二(フタ)-・ 父-・ 母-」2〔遊戯などで〕進行の中心となる人。 新明解第七版・八版
いかがですか。すぐ、あれ? と思いましたか。
人以外の動物には「親」はいないのでしょうか。サルでも、ライオンでも、犬でも、カラスでも、「親」がいて、子がいるものではないでしょうか。
親 子を産んだり育てたりするもの。父と母。[表現]人間のほか、広く動物についてもいう。 明鏡
三国もちょっと変です。
親 1子(である自分)を生んだ人。また、育てた人。父母。(⇔子)2祖先。「-代々」3〔動植物の〕子をふやすもとになるもの。「掘り上げたダリアの-いも」(⇔子)(以下略) 三国
1は人に限っています。そして、3で「動植物の」と広げるのはいいのですが、「ダリアの親いも」までを含めたいために、「子をふやすもと」という、動物にはしっくりしない言い回しになっています。
サルや犬の「親」を、「子をふやすもと」というのはどうにも変です。人間と同じように、「子を生んだもの」と言ったほうがいいんじゃないでしょうか。
親 子または卵を生んだ(育てた)もの。父母。 三省堂現代
三国と同じように、植物にまで言及した辞書。
1 (親)子を生んだ人。父と母の総称。また、その一方。養父母などにもいう。また、人間以外の動物にもいう。「実の―」⇔子。
2 (親)同類を増やすもとになるもの。「サトイモの―」「―木」⇔子。 大辞泉
大辞泉は、人と動物を一緒にして「子を生んだ」とし、植物の例を「同類を増やすもとになるもの」としています。こちらは「子」とは言わず、「同類」という言い方をしています。
これだけのことなんですが、どうして新明解は人だけに限るのか。
最初に原稿を書いた人が、思い込みであのように書いてしまい、それで編集も通ってしまう。
その後、何十年かの間に何度も改訂を繰り返しているのに、こんな明らかな不備に気が付かないのは不思議です。