ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

エキシビションゲーム

新明解国語辞典第八版の項目を検討します。このブログで以前とりあげたものです。
(2019-12-03 エキシビション・エキジビション)

これは特に新明解に問題があるという項目ではありません。他の辞書も、多くは似たり寄ったりです。

 

  エキジビション〔exhibitionの日本語形〕〔展覧会・展示会・模範試合など〕公開することを目的とした催し。エキシビション
  -ゲーム〔exhibition game〕公開競技。模範競技。  新明解

 

「エキジビション」に関する問題は後に回して、「エキジビションゲーム」について。

「公開競技。模範競技。」なんだそうですが、そう言われても私にはわかりません。一般の国語辞典利用者はこれでわかるのでしょうか。

「公開競技」「模範競技」という項目はありませんから、それぞれの構成要素を引いてみると、

 

   公開 -する (他サ)((だれニ)なにヲ-する)〔ある条件の下に〕一般の人が自由に入場・観覧・使用などが出来るようにすること。「年に一度だけ本尊を-する寺/公文書の-非-が問題になっている/-の席でお話しします/一般-・ 未- ・ -状 〔=多くの人の批判や意見を求めるために、特定の個人・団体にあてた書状を公表すること〕・ -録音」

   模範 それを見習うべき、りっぱなやり方(手本)。「-を示す」

   競技 1-する (自サ)お互いに技術を比べて優劣を争うこと。「珠算-会」
     2 〔←運動競技 〕おおぜいが一定の規則のもとに優劣を争うスポーツ。「-場」     [新明解国語辞典第七版]

 

特別なことはないようです。それぞれを組み合わせると、複合語の意味がわかるのか。

「公開」+「競技」で、例えば国体の陸上競技などは「エキジビションゲーム」なのでしょうか。
「模範」+「競技」のほうは、「模範」が「競技」と結びつく関係がわかりません。「優劣を争う」ことと、「模範」となることはどう関係するのか。

 

他の辞書も見てみましょう。

 

   エキシビション 公開。展示。また、展示会。博覧会。エキジビション。「新車発表の-」「-ゲーム(=模範試合)」  明鏡

 

明鏡も同じです。「模範試合」というだけです。明鏡にも「模範試合」という項目はありません。

 

  エキジビション 展覧会。展示会。品評会。学芸会。エキシビション。▽exhibition
   -ゲーム 模範試合。公開競技。▽exhibition game  岩波

 

岩波も同じです。「エキジビション」は訳語を並べただけで、用例もありません。

 

   エキシビション 1展覧(会)。展示(会)。2←エキシビションゲーム。▽エキジビション。
    ・-ゲーム〔exhibition game〕 公式には記録しない<公開試合/公開演技>。エキシビションマッチ。エキシビション。  三国

 

三国は、上の三冊よりは情報が増えています。「公式には記録しない<公開試合/公開演技>」だそうです。

先に例として出した、国体の陸上競技はどうも違うようです。「公式には記録しない」のです。
「公開演技」というのはどういうことでしょうか。

 

   演技 2体操・フィギュアスケート・サーカスなどのわざ(をして、見せること)。 三国

 

「公式に記録しない」演技をして見せること、のようです。何のためにそんなことをするのか。

「模範」として示すため、でしょうか。同じ競技をする小学生や中学生に見せるため?
どうもよくわかりません。

 

いくらか説明している辞書がありました。

 

  エキシビション  1展示。展覧会。2〔フィギュアスケートなどで〕勝敗に関係ない公開演技。▽エキジビション。

  エキシビションゲーム〔exhibition game〕おもに選手のわざを見せるための試合。模範試合。エキジビションゲーム。   三省堂現代


「おもに選手のわざを見せるための試合」です。やはり小中学生のためのような?
エキシビション」のほうに、フィギュアスケートの「勝敗に関係ない公開演技」が出されています。

少し、なんとなく、わかってきたような気がします。フィギュアスケートで、「優劣を争う」試合の後で、勝敗も点数も関係なく、観客のためにサービスで演技をするのですね。大会・競技会の「おまけ」みたいなものでしょうか。でも、ここでの「公開」の意味は何なのでしょうね。

フィギュアスケートの場合は、どう見ても「ゲーム(試合)」ではないでしょうから、「エキシビションゲーム」ではなく、ただの「エキシビション」のほうに入れたのはよいと思います。

 

もう一つ。

 

   エキシビションゲーム すぐれた技術や競技者の紹介などを目的として行う公開試合。模範試合。  学研現代

 

おそらく、いろいろなスポーツで「エキシビションゲーム」があり、それぞれのやりかたがあるのでしょう。勝敗は関係なく、「選手のわざ」を見せるためのもの、なのでしょう。それでも、「模範試合」という言い方はどうもぴんときません。

 新明解・明鏡・岩波・三国などは、せめて三省堂現代・学研現代程度の説明を書いてほしいと思います。小さな辞典なのだからしかたがないという言い訳はやめましょう。