新明解の副詞:たしか
「たしか」には、副詞の用法と形容動詞(「たしかだ/な/に」)としての用法があります。ここでとりあげるのは副詞のほうです。
「たしか」についての国語辞典の記述で、問題点が二つあります。
一つは、その「確信の度合い」の問題です。
明鏡国語辞典と新明解国語辞典の「たしか」の説明を比べてみると、
副 断言はできないが、たぶんそうだろうという気持ちを表す。「━日曜も営業しているはずだ」「あれは━去年の二月だった」 明鏡
(副) 断言は出来ないまでも、まずまちがいないと思い込む様子。「-こんな話でした/彼なら-大学をやめたはずだ/入荷は-明日だと思います」 新明解
「たぶんそうだろう」と「まずまちがいない」ではずいぶん「確信の度合い」が違うように感じます。
「たぶん」派。
副詞 絶対に確実だというわけではないが、多分そうだろうと思われる様子。「山田さんの家は~この近くだ」「君は~花子さんだったね」 講談社類語
「まちがいない」派。
副 判断や推測に十中八九まちがいはないだろうと思うさまを表す。[例]彼には確か子供が一人いたはずだ/あなたの勤め先は確かA社でしたね/確か一〇年ほど前のことだ 小学館新
「間違いなく」と「多分」のどちらもある派。
「たしか」の用法にはかなりの「幅」があると考えているのか、それとも「間違いなく」と「多分」は同じようなものだと考えているのか。
副 かなりの確実性をもって判断したり、推察したりしていう語。間違いなく。多分。「確か結婚したはずだ」「お子さんは、たしか一〇歳だと聞きました」 現代例解
副(絶対にそうだといっていいほどに)間違いなく。多分。「-明日だと思う」 集英社
私の感覚では、「多分」とは、そうなる可能性が大であるとは思うが、そう思うこと自体に確信がない場合に使う語です。「間違いなく」とはかなり違う。
たぶん雨が降ると思う。まあ、降らないかもしれないけど。
間違いなく雨が降ると思う。まあ、降らないかもしれないけど。
私の感覚では、後者はなんか変です。途中で気が変わったか何か。
副 ひょっとしたらちがっているかもしれないが、たぶん。[用例]たしか田中という名前でした。[表現]「たしかに…だ」というと、まちがいないという意味になるのに対し、「たしか…だ」は、すこし不安をもちながらも、いちおうまちがいないと思っていることを示す。 例解新
例解新も、「たぶん」と言いながら、「いちおうまちがいない」と言っています。
以上、いくつかの辞書を「多分」派と「間違いない(く)」派、その両方派、に分けてみてきましたが、この違いをどう考えるか。
大したことではないと考えるか、やはりこれはじっくり考えてみるべきことなのか。
もう一つ、「たしか」の用法には以上では触れられていない決定的な要素があると思います。
例えば、上であげた「たぶん/間違いなく 雨が降ると思う」の例では「たしか」は使えません。
?たしか、雨が降ると思う。
国語辞典の「たしか」の記述に関する二つ目の問題点です。
「たしか」は、単に判断や推測の「確かさ」を表す語ではありません。以下の国語辞典の記述を見てください。
副 自分の記憶や判定では多分間違いない事に。「去年の-四月に会ったきりだ」「-横浜に行くはずだ」▽確信度が「確かに」より低い。 岩波八版
副 絶対とは言えないが、ほぼ間違いないの意。記憶が間違っていなければ。多分。「-去年のことだった」[用法]形容動詞「たしかに」は、確信のある場合、副詞「たしか」は、やや確信に欠ける場合に用いる。 旺文社
副 記憶にあやまりがなければ。〔少し自信がない感じ〕「-、わたしたはずだ」 三国
「たしか」は「記憶」に基づいた判断・推測です。基本的に過去のことを思い出すことが多く、「たしか横浜に行くはずだ」の例では、そういうことを前に聞いた、というような場合です。
新明解の「入荷は確か明日だと思います」という例でも、それを知識として持っていて、それを思い出しています。
初めにあげたいくつかの辞書はこの点に触れていないので、用法の記述としては失格です。これは、けっこう大きな問題点だと思います。
「たしか」の「確かさ」の話に戻ると、例解新と上の三冊の辞書では、「たしかに」(形容動詞「たしかだ」の連用形)と比べて「確信度が低い/やや確信に欠ける」「少し自信がない」などとされています。
たしか、わたしたはずだ : たしかにわたしたはずだ
いかがでしょうか。
それにしても、「多分間違いない」「ほぼ間違いない」と「間違いない」と説明しているので、私の語感とは少し違います。
私にとって「たぶん」は確信のない時に使う語です。「間違いない」は自信たっぷり。
では、「多分間違いない」は、と言うと、ちょっと自信が揺らいできたような。
改めて考えてみると、私の「たしか」の使い方は、かなり「自信がない」ときに偏っているのかもしれません。どうも自分の記憶・知識に自信が持てない人間なもので。
以上の国語辞典の中では、三国の記述が私の感覚といちばん近いようです。