ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

新明解の副詞:せいぜい

新明解国語辞典から。
 
  せいぜい (副)〔中世語「精誠(セイゼイ)〔=誠意を尽くすこと〕」の変化という〕1出来る限りの努力をする様子。「-がんばってくれたまえ/-勉強いたします〔=商人の用語。⇒勉強〕」2どんなに多く見積もったところで、それが限度だと判断される様子。「-新聞を読むのが関の山という生活/どんなにがんばっても一日十軒回るのが-だ」  新明解

 

明鏡国語辞典も岩波国語辞典もだいたい同じ記述です。 

 

   副 1力の及ぶかぎり努力するさま。できるだけ。精いっぱい。「━勉強しなさい」2できるだけ多く見積もっても。最大限。たかだか。「原価は━千円ぐらいだろう」  明鏡

  〘副・ノダ〙最大限。①多く見積もっても。たかだか。「もうけは―(のところ)百円ぐらいか」「あとで泣きつくのが―だろう」「―が仲間うちだけの議論にとどまる」②一心に努力して。力の及ぶ限り。できるだけ。「―勉強しなさい」  岩波

 

しかし、私の語感では、「できる限り/精一杯 頑張りました」と「せいぜい頑張りました」とではかなり違います。そもそも、後者はほとんどそう言いません。言うとすれば、「せいぜい頑張りましたが、相手とは実力差がありすぎました」というような、敗戦の言い訳をするような場合でしょうか。

 

三省堂国語辞典

 

  副 1それ以上はないことをあらわす。多く見積もって。たかだか。関の山。「集まったとしても-(で)四、五人だろう・まじめに言っても笑われるのが-だ」2〔あまり結果を期待しないが〕できるだけ。「ま、-がんばってくれ」3〔古風〕じゅうぶんに。「-がんばってください」  三国

 

2と3の説明の違いが面白いです。積極的な意味合いの3は「古風」とされ、2のほうは「あまり結果を期待しないが」という注釈付きです。
「せいぜい」は、その努力の結果に対して、ある含みがあるように思います。

 

例解新国語辞典がかなりはっきりとした解説をしています。

 

  副 1できるだけ。やや古風な言いかた。[用例]本校の代表として、せいぜいがんばってきなさい。[類]精一杯。2すきなだけ。相手を見くびって、皮肉としていう言いかた。[用例]どうせだめだろうけど、せいぜいがんばってね。3多くみつもっても。[用例]出席者はせいぜい百人程度だろう。[類]たかだか。
  [注意]1のつもりで「せいぜいがんばってください」のように言うと、2とまぎれて、「どうせだめだろうから期待していないけど」と皮肉を言ったように誤解されるおそれがあるので、いまは、「精一杯がんばってください」とか「ベストをつくしてください」のように言うほうがよい。  例解新

 

[注意]という解説がわかりやすく書いています。私も、「せいぜいがんばってください」とは言わないほうがいい、という意見に賛成です。新明解の「せいぜいがんばってくれたまえ」という用例には、かなり「上から目線」である上に、「どうせだめだろうから期待していないけど」という皮肉を感じてしまいます。

ただ、例解新の2の語釈、「すきなだけ」というのはあまり適切だとは思えませんし、「相手を見くびって」というのも限定しすぎのように思います。上でも述べたように、「勝てそうもないけれど、まあ、せいぜい頑張るよ」と自分のことにも言えると思うからです。

この、結果を否定的に予想するような意味合いは、もう一つの「多く見積もっても」という用法につながっているのでしょうか。

このような私の語感は、かなり昔からのもので、「せいぜい」というのはそういう語だと思っていたので、新明解その他の辞書を見て、おや?と思いました。

私の見た中では、三国と例解新だけが違ったことを書いていました。一般の日本人の語感ではどうでしょうか。実際の多くの使用例ではどのような意味合いで使われているでしょうか。