国語辞典の「自動詞・他動詞」(13):待ち合わせる・浴びる・踊る
また少数派の存在する語を。今回は岩波が個性的です。
待ち合わせる 押し通す かっ飛ばす
新明解8 他 他 他
明鏡3 他 他 他
三国7 他 他 他
岩波8 自 自他 自他
学研新6 他 他 他
三現新6 他 他 他
小学日 他 他 他
集英社3 他 他 他
旺文社11 他 自他 他
新選9 自 他 他
「待ち合わせる」では岩波と新選だけが自動詞で、他の辞書は他動詞です。
どの辞書も「を」の例を出していないようですが、書きことばコーパスには「を」の例があります。
・ここで10分程とまり、三ヶ木からのバスを待ちあわせる。
・しかし写真のようにバスを待ち合わせている人が所定の場所に立つと、
・反対側来る同じ列車を待ち合わせたりします。
・途中で対向列車を待ち合わせていました。
・この狭い空き地が対向車を待ち合わせる重要なスペースであったろうから
この「を」の例を他動詞と考えない理由は何でしょうか。
逆に、「駅で人と待ち合わせる」を自動詞と考えてはいけないでしょうか。
つまり、「自他」とするのがいいのでは。
「押し通す」は岩波と旺文社のみが自動詞の用法を認めます。
押し通す〘五自他〙①無理に通す。「自説を―」
②(困難があっても)貫き通す。やり抜く。「一生、独身で―」 岩波
「独身で押し通す」は「を」が入らないので自動詞用法ということでしょう。(「一生を」?)
データベースには次のような例があります。これらは自動詞用法と考えていいでしょうか。
・自分の独創的な価値観を持ち、理屈で押し通すところがあるようです。
・島国とは、世界の国々が見えず、自国だけの勝手な論理で押し通す国である。
「勝手な論理を押し通す」とも言えるところを「論理で」と言っているとも解釈できますし、「勝手な論理で(自分の意見を)押し通す」だと考えると他動詞でしょうか。
「かっ飛ばす」は岩波だけが自動詞用法を認めます。
かっ飛ばす〘五他自〙〔俗〕勢いよく飛ばす。㋐野球のボールを打って勢いよく
遠くまで飛ばす。「ホームランを―」㋑車などを速く走らせる。「車より自転
車が-・している」▽「かっ」は接頭語。 岩波
この㋑が自動詞ということでしょうか。(岩波は、時々、「自他」でなく「他自」という表示をします。これにどういう意味があるのかはわかりません。上の㋐㋑の順が「他-自」だからでしょうか。
しかし、その上の「押し通す」も用法の順は「他自」だと思うのですが、表示は「自他」です。)
書きことばコーパスにも自転車の例があります。車の例も。車いすの例もあります。
・『並木通り』を笑顔で自転車でかっ飛ばしている人を見かけたら私かもしれません。
・アクセル全開でかっ飛ばして走る必要はありません。
・三宮センター街を車いすでかっとばしたさ。
・大学生の頃は車の運転が大好きで、車でこの辺をかっ飛ばしていましたのを思い出しました。
最後の例の「この辺を」は「通過点」の「を」でしょう。
〔俗〕ですが、自動詞としてのそういう用法があると言えるでしょう。
ちょっと特殊な性質のある「浴びる」「踊る」を。
浴びる 踊る
新明解8 他 自他
明鏡3 他 自(他)
三国7 他 自
岩波8 他 自
学研新6 他 自(他)
三現新6 他 自
小学日 他 自
集英社3 他 自
旺文社11 他 自
新選9 自 自
「浴びる」は新選だけが自動詞とします。「水を浴びる」「シャワーを浴びる」「非難を浴びる」など、「を」の例はいくらでもありますが、なぜか自動詞です。
(これは、フランス語などで言う「再帰動詞(動作が自分に返ってくるような意味の動詞で、純粋な他動詞とは性質が違う)」と関係があるのでしょうか。それ以外に自動詞とする理由がわかりません。)
「踊る」はみな自動詞とします。他動詞の用法を認めるかどうか。新明解だけがはっきり他動詞用法もあるとします。
これは、いわゆる「同族目的語」をとる場合は自動詞とするということでしょうか。
踊る(自五)1音楽に合わせ、身振り手振りを交えて体を動かす。「クラブで━」
「輪になって━」「笛吹けども━・らず」
[語法]同族目的語の類をとって他動詞としても使う。「踊り[どじょうすくい・
白鳥の湖]を━」
2 操られて行動する。踊らされる。「政治家が札束に━」 明鏡
「国語辞典の「自動詞・他動詞」(10)」で紹介した明鏡の「品詞解説」をもう一度。
明鏡国語辞典 第三版「品詞解説」(p.1816)より
自動詞・他動詞は、以下のように区別する。(略)
(オ)「ダンスを踊る」「マラソンを走る」のように、対がなく、しかも動詞と意味
的に近接した名詞(いわゆる「同族目的語」)だけが「~を」で現れるものは、
項目の品詞表示では自動詞とするが、[語法]で他動詞としての用法があること
を注記する。
私は、この「同族目的語」なる概念がよくわかりません。「ワルツを踊る」をなぜ他動詞と考えないのか。「踊りを踊る」はいかにも特殊な感じがしますが、「動詞と意味的に近接した名詞」とはどこまで言えるのか。「いろんな食物を食べる」はどうか。
新明解の「他動詞」とは。
踊る(自他五)1((なにヲ)-)音楽に合わせて勢いよく足を上げ下げしたり前後
左右に動かしたり 何かを軸に回転させたり また、それに伴って手や腰の
動きを加えたり する。「ワルツを-」
2 勢いよく跳んだり はねたりする(して揺れ動く)。「言葉だけが踊っている
〔=表現だけが現実から遊離して、無意味に用いられている〕/ビラには
勇ましいスローガンの見出しが踊っている〔=強い力で見る人に訴える〕
3 驚きや緊張などで心臓の鼓動が激しくなり落ち着かなくなる。「胸が-/
心が-」
2の一部と3は、「躍る」とも書く。 新明解
この書き方だと、1が他動詞用法なのでしょう。つまり、他の辞書とははっきり対立した考え方です。
私の感覚でも、「踊る」はまず他動詞です。それがひゆ的に使われて、自動詞的用法になるのだと考えます。