新明解国語辞典の語釈の問題点です。
まさか (副)〔「まさ」は、「まさしく・まさに」の語根と同義。「か」は接辞〕
あるはずがないと確信している事が、意外にも実現した場合を想定する
(して信じられないことだと思う)様子。[表記]「真逆」と書くこともある。
[文法]一般に、否定的な内容の表現を伴ったり含意したりして用いられる。
[運用]感動詞的に用いて、相手の発言内容に驚いたり 疑いをいだいたり
するときの言い方となる。例、「『佐藤さんを次期専務に推す声があるん
ですよ』『まさか』」 新明解
新明解は「あるはずがないと確信している事が、意外にも実現した場合を想定する(して信じられないことだと思う)様子」としていますが、用例がないので、「実現した場合を想定する」というのがどういうことを言いたいのかどうもはっきりしません。
明鏡・岩波は違う解釈です。
《下に否定的表現を伴って》どう考えてもそのような事態は起こりそうもない
という気持ちを表す。いくら何でも。よもや。「━雨にはならないだろう」
「━ねえ、失敗するとは思わなかったよ」「『━結婚はしてないだろうね』
『いえ、その━なんですよ』」「━の敗北」 明鏡
①《普通はあとに(推量的)打消しを伴って》そんなことはあり得ない、または
とてもできない(だろう)という気持を表す語。よもや。いくら何でも。「―君
ではないだろうね」「―恩知らずとも言えないし…」。 岩波
明鏡も岩波も「起こりそうもない」「あり得ない・とてもできない」と否定・打ち消し(の推量)だとしています。
三国は上の明鏡・岩波と同じ用法と、おそらく新明解と同じ解釈のどちらも認めています。
1そんなことはないだろうという推量や、それが実際にあったというおどろき
をあらわす。「-知るまい・-入賞するとは、と喜んだ・-の初戦敗退・
『おばけかな』『-!』」 三国
私は、この三国の記述がいいと思うのですがどうでしょうか。
それにしても、何で新明解はまともな用例がないのでしょうか。
唯一の例である[運用]の感動詞的用法「まさか!」は「そんなことがあるはずがない」という気持ちを表しているのですから、副詞用法の語釈と整合していません。「実現した場合を想定」しているわけではありませんから。
書き言葉コーパスからの例を少し。
・まさか無いとか言わないよね?
・そんなことはまさかないでしょう。
・そういうことはまさかないと思います。
・まさかないだろ…と思っていた商品が。
・念を押すのを忘れたがまさかなくしてしまうとはな、困ったものだ。
・まさか無いだろうと思っていた「ガチャ子の帰還」が実現してしまったのだ。
・その当時は私自身、「雷が我が家に落ちるなんてまさか無いよな〜」なんて思ってました。
・まさか本気で言ってないよね?
・それともまさか本気で言ってるのか?
・でもまさかそうではないでしょう。
・そしてまさか自分の旦那がそうだなんて、夢にも思いませんでした。
・まさかそんなこと本当にするわけないからな。
・まさかと思った。
・最初はまさかと思いました。
・まさか、そんなはずはない。
・まさか本当に出て来るとは。
・まさか津波なんてくる訳ない!
・まさか犬が食べちゃったの!?
こういう実例をたくさん調べて、自分の辞書の語釈で全部説明できるかを考える、というのが辞書の執筆者・編集者の基本作業だと思うのですが、それをきちんとやっているのかどうか。
実例をしっかり分析していれば、自分の辞書の解釈に合うような用例をのせるのはそんなに難しいことではないと思うのですが。