ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

三国第八版:ウエート/ウエイト

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。

 

「2017-08-12ウエ ート」という記事で、外来語が表す「意味」の説明と、その「使い方」の説明の違いについて書きました。

niwasaburoo.hatenablog.com

三国第七版から第八版になって一部書き換えられましたが、肝心な部分がそのままです。

 

  ウエート (名) ①重量。重さ。②重み。重要さ。▽ウエイト。 ・ウエートを置く
    [句] 重くあつかう。   三国第七版

  ウエイト (名) ①重量。重さ。②重み。重要さ。③重し。「ぺーパー-」
    ▽ウエート。ウェイト。ウェート。 ・ウエイトを置く[句]重くあつかう。
    「数学にウエイトを置いて勉強する」
                         三国第八版

 

まず、見出しの形が「ウエート」から「ウエイト」に変えられました。これは、そう発音されることが多いということでしょうか。それとも、そう表記されることが多いということでしょうか。発音は「ue:to」と変わらずとも。

記述の内容を見てみましょう。

「ウエート/ウエイト」ということばを目にしたり、耳にしたりした時に、「重量。重さ。」あるいは「重み。重要さ。」で置き換えれば大体の意味は通じるのでしょう。

でも、それで「ウエート」ということばの使い方がわかったことになるのでしょうか。

 

  ・電車は、1両20t以上の重量がありますので、10両で200tです。
  ・1 ビーカーの重量を測り,それぞれのビーカーに米50gを入れる。
           (書きことばコーパス NINJAL-LWP for BCCWJから)

 

という文で、「ウエート」と使えるかどうか。

そうでないとしたら、どういう説明を上の語釈に加えればいいのか。

他の辞書を見てみます。

 

  ウエイト ①重量。特に、体重。   明鏡

 

明鏡は「特に、体重」と言っています。これが正しいとするなら、上の二つの例で「ウエート」と言わないことが説明できます。

しかし、例えば私が、「毎日、風呂に入る前にウエートを量っている」というのも何か変でしょう。

また、赤ちゃんの体重を量る時に「ウエートが…」などとは言わないでしょう。

 

  ①〔ボクシング・レスリングなどの選手の階級を決める〕体重。  新明解

  ①重量。特に体重。「ウエートがオーバーする」  現代例解

 

新明解はかなり限定しています。

現代例解は、おそらく新明解と同じ解釈で、用例をあげています。(私は、風呂の前に体重を量って「ウエートがオーバーしている」とは言いません。医者に、何キロ以下に減量しろ、とか言われていれば言うかな?)

この二つを合わせると、かなり状況が限定され、使い方がはっきりします。
 
  ウエート 〔ボクシング・レスリングなどの選手の階級を決める〕体重。
    「(試合前の計量で)ウエートがオーバーする」


とか。

もちろん、これ以外にも「ウエート」を使える(「重量」の意味で)場面はあるのでしょうが、いちばん典型的な使い方ではないでしょうか。

ただ、このような説明、用例を書くようにするのがよいと言うと、よく言われることですが、「辞書の大きさが大きくなりすぎ、価格も高くなり、…」という反論、あるいは言い訳が出てきます。

それはそうなんですが、このくらいの説明をしなければ、「語の用法」を解説した国語辞典、とは(恥ずかしくて)言えないんじゃないでしょうか。


さて、用法の2つ目、「重み。重要さ。」のほうを考えてみましょう。

「書きことばコーパス」を見ると、「ウエート」の使用例のほとんどはこちらの意味のようです。

 

  ・政府予算案の中で大きなウエートを占める人件費の問題について質問します。
  ・45%:55%ぐらいの割合で守備にウェートを置いてくるでしょう。
  ・株価の形成には心理価値というもののウェートが大きいからです。
           (書きことばコーパス NINJAL-LWP for BCCWJから)

 

こちらも、「重み。重要さ」との使い方の違いが重要です。

 

  重み ①重く感じる<こと/程度>。「雪の-」②どっしりとしておちつきのある
    こと。「-のある態度」(⇔軽み)③大切な価値。「-のある発言・歴史の-」
                         三国第八版
 
「雪のウエート」「ウエートのある態度」「ウエートのある発言」「歴史のウエート」。
どうでしょうか。どれも変ですね。(最後の例は文脈によっていいかもしれません。)

上の書きことばコーパスの3つの例はどういう意味合いで使われているのか。

「他の同類のものと比較した、そのものの重要度」ぐらいのところでしょうか。「重要さ」でもいいかもしれませんが、「ウエート」というと、他のものと比較して言っている、という感じが特にします。

 

他の辞書を見てみると、

 

  ②重点。「…に-を置く〔=重要なものとして扱う〕/-を掛ける/-は低い
   (小さい)」  新明解

  ②重要度。重点「<置く>少子化対策にウエートを置く」「<占める>ウエートを
   占める」   現代例解

 

「ウエートを置く」「ウエートをかける」「ウエートは低い(小さい)」「(大きな)ウエートを占める」など、適切な用例をつけることが重要ですね。そうすることで、意味だけでなく、実際の使い方が(少しでも)わかります。

三国は用例が少ないのが大きな欠点です。この「ウエート」の項は特にそれが表れています。

[句]として「追い込み項目」とされている「ウエートを置く」はまさにこの用法2の例になるわけですが、それ自体に用例が必要なものです。第八版では用例が付きました。

また、用法の③として「重し」の意味が加わり、「ペーパーウエイト」という用例がつけられています。この辺は改訂によってよくなったところです。

 

全体として、項目としてよくなったとは思いますが、初めの二つの用法の解説が全く不十分なのは残念です。