ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

三国第八版:う(得)・う(助動詞)・ヴ

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。

 

今回はかなり大きく変わった項目を。

まず、「う(得)」から。

niwasaburoo.hatenablog.com

 

  う [得] (他下二)〔文〕⇒え(得)る。  三国第七版

 

七版ではこれだけで、「える」を見ても、「う」についての情報はありませんでした。そこから「うる」の項目へ行っても、「う」がどういう場合にどのように使われる形なのかはわかりませんでした。

第八版。

 

  う [得] (他下二)〔文〕「え(得)る」の文語形。⇒ありうべき・うべかりし・
     うべき。   第八版
        
「得る」の「文語形」であること。これは新明解と同じですね。(〔文〕という記号は「文章語」の意味です。)

そして、「う」自体がそれだけで使われることはないので、実際に使われる複合した形が参照項目としてあげられています。非常にわかりやすくなったと思います。

また、前回の記事で「うる(得る)」の活用形について「折衷的なもの」と(不正確に)書きましたが、第八版では「うる」の項に、

 

  うる(略)[!]文語下二段「う」が口語下一段「える」に変化する途中の形。 第八版

 

という注釈が付け加えられました。([!]という記号の意味は、表紙見返しの「記号・略号表」によれば「豆知識」だそうです。)


次に助動詞の「う」について。

niwasaburoo.hatenablog.com

 

  う(助動・特殊型) 主として意志・推量をあらわす助動詞。〔五段活用の動詞に
    つく〕「さあ、行こ-」⇒:よう。  三国第七版

 

これは、参照項目の「よう」も含めて、説明が不十分な項目でした。

第八版の「う」は12行の詳しい解説が施されています。「よう」も7行になりました。
まあ、これでも他の辞書、新明解・明鏡・岩波などと比べるとずいぶん短い解説なのですが、文法書ではないのですから、このくらいで十分だと言っていいのでしょう。


もう一つ。ちょっと変わった項目ですが、第七版には次のような項目がありました。

 

  ヴ ⇒ブ 例、サーヴ⇒サーブ。  三国第七版

 

言わんとすることはよくわかり、誤解のおそれはないと思うのですが、辞書の項目の書き方としてこれでいいのだろうか、ということをごちゃごちゃと書きました。

niwasaburoo.hatenablog.com

第八版では8行の解説がついています。

 

  ヴ ◇外国語の音の「v」「vu」などを特に表すときに使うカタカナ。多くの場合は
   「ブ」と書き、この辞書の見出しでも「ブ」で示す。(以下略) 第八版

 

「ヴァ」「ヴィ」「ヴェ」「ヴォ」の項も少し変わりました。

 

  ヴァ ⇒バ 例、ヴァイオリン⇒バイオリン。  第七版

  ヴァ ◇この辞書の見出しでは「バ」。例、ヴァイオリン⇒バイオリン。→ヴ。
                        第八版

 

この「◇」という記号の説明は、「記号・略号表」の「品詞など」に「右以外(特定の活用形など)」とあります。この「右」とは品詞名の略記号や「造」「連」(連語)などです。
この◇は、普通の「語」の項目ではないということを示しています。これも、ささいなことですが、項目の書き方として必要なことでしょう。